光の部屋、花の下で。

四日目

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　相づちのあとに続いたのは、片桐さんの母親が末期がんで自宅療養をしていたとき、訪問介護のスタッフにずいぶん助けてもらった、という彼女自身の体験談で、俺の家庭の事情を気遣って話題を変えたのかもしれないし、介護士をしているという自己紹介を聞いて話す気になったのかもしれなかった。
　片桐さんの口ぶりからは、看病していた彼女の母親がすでに他界しているとわかる。こういうとき、由香里ゆかり先輩のようにすんなりとは「お疲れ様でした」というねぎらいの言葉が出てこない。片桐さんのお母さんなら、響野にとってはお祖母さんだな、とぼんやり考えるのがせいぜいだ。
「次の職場も入所施設で考えてるの？」
　俺が満足な応答をできないでいるうちに片桐さんは、今度は転職について質問した。俺の反応を見て話題を変えたのかどうかは、今回もはっきりしなかった。
「最初はそのつもりだったんですが、介護士の先輩で、色々見ておくのも良いと助言をくれた人がいて、一応、訪問介護や通所施設も受けてます」
　他人の助言で応募先を決めていると打ち明けるのは、自分の頭を使っていないように聞こえそうだけれど、事実だから仕方なかった。
　働きたいと思う職場がないわけではない。でも、その本命にはなかなかアプローチをかけられないでいる。
「気持ちは嬉しいけれど、もっと色々な現場を見てから決めても遅くないと思うよ。うちはベンチャーみたいなものだから、開所してもしばらくは絶対に苦労するし、正直どれくらいの待遇を約束できるかもわからないのよね」
　電話口で数ヶ月ぶりに話した由香里先輩は、自分で介護施設を作るために事業者登録をすませ、もろもろの準備を進めている最中だった。