光の部屋、花の下で。

三尾

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四日目

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 駅前のロータリーからバスに乗って工場地帯が広がる海沿いを目指した。スマホの地図アプリを確認しながら、民家と商店の混在する路地裏を歩く。工場の建つ河口付近をしばらくうろついて、ひとけのない訪問介護ステーションを発見したあとは、もう、ほかに行けそうな場所は残っていなかった。
 住人同士が身を寄せ合うように暮らしていた川沿いの建物は、とっくに取り壊されてあとかたもない。そのことを知ったのは、七歳の夏、消えた母親を探しにおやじとふたりでこの町を訪れたときだった。
 母親の手がかりをつかもうと、おやじは南米コミュニティに縁のありそうな相手を見つけては声をかけた。その中のひとりが、一時期、工場が借り上げていた従業員用のアパートに住んでいたと教えてくれた。ブラジル国籍を持つ男性だった。
 母親が工場で働いていたのかは、はっきりしなかったけれど、男性の話によれば、空き部屋が出ると通常の賃貸物件として店子を募集することもあったらしい。工場に直接関わりのない家族連れも住んでいた、という話だ。
 男性は、俺と母親のことは何も知らなかった。俺のほうでも彼の顔には見覚えがなかった。もしも男性の言うアパートが、俺たちの住んでいた場所だったとしても、時期は重なっていなかったのだろう。
 バブル崩壊後に景気が悪くなりはじめたことで、工場では大規模な人員削減をおこなった。従業員アパートの取り壊しも、その流れの延長線上にあったようだ。
 稼げない国にいても仕方がないからと、コミュニティの多くの仲間が帰国を決めるか、別の国へと移動した。彼自身も、近いうちにそうするつもりだと言っていた。
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