光の部屋、花の下で。

四日目

33

「それはそうだろう？　水元が言った通りになったな」
「俺？　何か言ったっけ」
「“堂々としてればいい”って」
「ああ、うん」
　答えに迷って、あいまいにつぶやいた。本当は何か信念があって「堂々としてろ」と言ったわけではなく、教師に目を付けられたからには、なるようにしかならない、という程度の意味だった。
「ま、あそこに置いてあるヤバいものって、安西のエロ本くらいだしな」
「エロ本だって見つかればヤバいだろう」
「そこは真っ先に本人が隠してたよ」
　社会科の資料集に載っているブラジル国旗を描き写しながら、ノートパソコンのキーを叩いている響野を見る。
「ちなみに、響野はどうしてる？」
　さりげなく聞いたつもりだったけれど、自分の声が不自然に間延びしている気がして、国旗の緑色を塗る手元に視線を落とした。
「何か……使ってるものとかある？」
　キーの音がやんで、「あるよ」と、ややぶっきらぼうな声が答える。
「デスクトップの中に」
「ああ、そこが隠し場所なんだ？」
　カレーパーティーのときの会話を思い出しながら言った。うなずいた響野が、ふと俺を見る。あわてて「いい」と首を振った。
「何だよ、“いい”って？」
「“観るか？”とか聞かれそうだったから……観なくていい」
　俺の返事を聞いた相手は、考え深げな表情になって「まだ昼だからな」とつぶやいた。そうして、背後の勉強机をかえりみる。
「でも、水元が観たいなら、家族が戻る前に流してみるか？」
「な、何でだよ？　観なくていいって言ってるのに」
　どうやら先回りしてことわったのを、遠慮がちに希望しているものと勘違いされたらしい。どうにか相手の誤解をといた頃、玄関チャイムが鳴ってピザが届いた。