光の部屋、花の下で。

四日目

31

「パソコンを“いじる”って、具体的にどんなことをするの？」
　何気なく聞いてから、相手の目に浮かんだ不穏な輝きに気付いて質問の方向性を間違えたことを悟る。
「あ、やっぱりいいや。教えてくれなくて」
「何でだよ？」
　早々に前言を撤回した俺に、響野が抗議した。
「うちパソコンないし、聞いてもわからないから。“絵に描いた餅”っていうかさ」
　俺の回答を聞くと、彼は肩をすくめて引き下がった。どこか残念そうに口をすぼめて模造紙のスイスの国旗をカラーペンで塗っている。いつもより表情豊かな顔を、面白さとめずらしさが半分ずつの気持ちでながめた。
　響野と横山が技術部の文化祭準備で忙しくしているあいだに、空き教室では、和田が翼の治った鳩を放しにいった。
　放課後、保護した場所まで鳩を連れていく和田に付き合った話をすると、響野は模造紙から少し顔を上げて「どうだった？」とたずねる。
「ちゃんと飛んでいったよ」
「そうか、良かったな」
　グラウンドのすみの木陰でケージのふたを開け、少し離れた場所から和田とふたりで鳩を見守った。残された鳩は、しばらく檻の内側でじっとしていたものの、ふいに自分の頭上をさえぎるものが何もないことに気付いたのだろう。ケージを出て、しばらくグラウンドを歩き回ったかと思うと、三週間の療養生活などはなかったかのように、羽根を広げてどこかへ飛び去った。
　鳩が消えるまで見送った和田は、空のケージを洗って飼育棟へ返しにいった。俺が「お疲れ」とねぎらうと、彼は動物の話をするときにたまに見せるあいまいな笑顔になって、「これで良かったのかなあ」とつぶやいた。