光の部屋、花の下で。

四日目

28

　なぜ急にこんな話題になったのか。「迷惑だったら言え」というのは、つまり、響野はそれを知りたいのだろうか。俺にとって何が迷惑で、どういうことが嫌なのかを？
　そんなものを知ってどうなるというんだろう。
　黙ったままでいると、響野のほうが先に視線をそらした。自分の足元を見て、「いや、いい」とつぶやく。
「説明しろって意味じゃない」
「あ、ごめん。何か……うまく言えなくて……」
「いいよ」
　短い返事のあと、響野は気を取り直すように視線を上げて、「日曜これるか？」と聞いた。あわてて「行ける」とうなずく。
　特別教室棟の前で響野と別れた。建物の中に入っていく後ろ姿はいつも通りで、今しがたのぎこちない会話を引きずっている感じはしなかった。抜き打ちで出されたテストを白紙で返さなければならなかったような気分の俺とは違って。


　二日後、文化祭用の模造紙と差し入れのコーラを持って響野家を再訪した。
　カメラ付きのインタホンを押すと、スピーカーから『今行く』と応答があり、夏と同じように玄関ドアから響野が顔を出す。お互いの服装が秋仕様なのは以前と違う部分だ。それに、玄関を入って靴を脱いでも小走りに近づいてくる足音がなかった。
　玄関先でコンビニのレジ袋に入ったコーラを差し出すと、「別にいいのに」と眉を上げて響野は袋を受け取る。
「家族は出かけてるんだ」
　廊下を歩いている最中にそんな説明をされた。未希ちゃんの習い事の発表会があるらしい。
「昼は外で食べてくるって言ってたから、たぶん、夕方まで戻らないよ」