光の部屋、花の下で。

三尾

文字の大きさ
上 下
131 / 377
四日目

18

しおりを挟む
「花?」
「祭壇に飾るやつを」
「ああ、枯れかけてるもんな」
「枯れかけてるのか?」
「うん。何度か水は替えたけど」
 そこで会話が途切れた。ぎこちないやりとりをするあいだ、スプーンを握った響野の手は皿の横で固まっていた。「食べないの?」と促すと、今しがた夕食の存在に気付いたかのように動きはじめる。皿と口のあいだを行き来するスプーンの速度はひどく遅い。
「味、いまいちだった?」
「いや」
 ぎくしゃくとした動きと返事に、部屋での一件を引きずっているのは向こうも同じみたいだ4と結論づける。むしろ響野のほうが、動揺のレベルが大きそうだった。男相手にムラっときたことが、食事も喉を通らなくなるくらいショックだったのだろうか。
「……無理しなくていいから」
 言った拍子に、彼のスプーンから鶏肉が落ちてテーブルを転がった。めずらしいなと思っていると、相手は落とした肉を拾おうと手探りをはじめる。
「そのままでいいよ」
 あわてて制止し、ホワイトソースの絡んだ鶏肉をつまんで自分の皿のすみに移動させた。
「嫌いとかじゃない。グラタンを選んだのは俺だし、味もうまいよ」
 色々な角度からの弁解とフォローが入り混じった言葉に苦笑がもれる。
「気にするなって。食べられるものなんて体調によって変わるだろ。でも、なるべく食事は抜いてほしくないから、ほかに食べられそうなものないか? おかゆとか」
「いや、いい。……食欲がない」
 低く答えた響野は、とうとう皿の上にスプーンを置いてしまった。申し訳なさそうに「残してごめん」とあやまられる。
 胸のあたりがぎゅっと痛んだ。ダメージを受けている彼の姿に、自分もダメージを受けていたのだと気が付いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。

丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。 イケメン青年×オッサン。 リクエストをくださった棗様に捧げます! 【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。 楽しいリクエストをありがとうございました! ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

ヤンキーDKの献身

ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。 ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。 性描写があるものには、タイトルに★をつけています。 行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。

処理中です...