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四日目
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「花?」
「祭壇に飾るやつを」
「ああ、枯れかけてるもんな」
「枯れかけてるのか?」
「うん。何度か水は替えたけど」
そこで会話が途切れた。ぎこちないやりとりをするあいだ、スプーンを握った響野の手は皿の横で固まっていた。「食べないの?」と促すと、今しがた夕食の存在に気付いたかのように動きはじめる。皿と口のあいだを行き来するスプーンの速度はひどく遅い。
「味、いまいちだった?」
「いや」
ぎくしゃくとした動きと返事に、部屋での一件を引きずっているのは向こうも同じみたいだ4と結論づける。むしろ響野のほうが、動揺のレベルが大きそうだった。男相手にムラっときたことが、食事も喉を通らなくなるくらいショックだったのだろうか。
「……無理しなくていいから」
言った拍子に、彼のスプーンから鶏肉が落ちてテーブルを転がった。めずらしいなと思っていると、相手は落とした肉を拾おうと手探りをはじめる。
「そのままでいいよ」
あわてて制止し、ホワイトソースの絡んだ鶏肉をつまんで自分の皿のすみに移動させた。
「嫌いとかじゃない。グラタンを選んだのは俺だし、味もうまいよ」
色々な角度からの弁解とフォローが入り混じった言葉に苦笑がもれる。
「気にするなって。食べられるものなんて体調によって変わるだろ。でも、なるべく食事は抜いてほしくないから、ほかに食べられそうなものないか? おかゆとか」
「いや、いい。……食欲がない」
低く答えた響野は、とうとう皿の上にスプーンを置いてしまった。申し訳なさそうに「残してごめん」とあやまられる。
胸のあたりがぎゅっと痛んだ。ダメージを受けている彼の姿に、自分もダメージを受けていたのだと気が付いた。
「祭壇に飾るやつを」
「ああ、枯れかけてるもんな」
「枯れかけてるのか?」
「うん。何度か水は替えたけど」
そこで会話が途切れた。ぎこちないやりとりをするあいだ、スプーンを握った響野の手は皿の横で固まっていた。「食べないの?」と促すと、今しがた夕食の存在に気付いたかのように動きはじめる。皿と口のあいだを行き来するスプーンの速度はひどく遅い。
「味、いまいちだった?」
「いや」
ぎくしゃくとした動きと返事に、部屋での一件を引きずっているのは向こうも同じみたいだ4と結論づける。むしろ響野のほうが、動揺のレベルが大きそうだった。男相手にムラっときたことが、食事も喉を通らなくなるくらいショックだったのだろうか。
「……無理しなくていいから」
言った拍子に、彼のスプーンから鶏肉が落ちてテーブルを転がった。めずらしいなと思っていると、相手は落とした肉を拾おうと手探りをはじめる。
「そのままでいいよ」
あわてて制止し、ホワイトソースの絡んだ鶏肉をつまんで自分の皿のすみに移動させた。
「嫌いとかじゃない。グラタンを選んだのは俺だし、味もうまいよ」
色々な角度からの弁解とフォローが入り混じった言葉に苦笑がもれる。
「気にするなって。食べられるものなんて体調によって変わるだろ。でも、なるべく食事は抜いてほしくないから、ほかに食べられそうなものないか? おかゆとか」
「いや、いい。……食欲がない」
低く答えた響野は、とうとう皿の上にスプーンを置いてしまった。申し訳なさそうに「残してごめん」とあやまられる。
胸のあたりがぎゅっと痛んだ。ダメージを受けている彼の姿に、自分もダメージを受けていたのだと気が付いた。
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