光の部屋、花の下で。

三尾

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四日目

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 反対に特別教室棟の周辺は、グラウンドで練習する運動部の気配が途絶え、いつも以上に僻地っぽさが際立っている。技術部の活動がないぶん、建物の内部も静かだ。テスト前の自主学習をしようという殊勝な心がけの生徒にとって意外に悪い環境でもなかった。
 低音量でラジオを流しながら横山と社会科の暗記問題を出し合っていると、しばらくして飼育委員の仕事を終えた和田が合流した。窓ぎわでは運動マットの上に数学の宿題プリントを広げた安西が、響野から図形問題の手ほどきを受けている。
 ケージの掃除をはじめた和田は、そんな俺たちを見て「夏休みのときみたいだね」と言った。その言葉に、響野の家で宿題をやったことを思い出す。
「響野君ちのカレー、おいしかったよ」
「ああ、またこいよ」
「あーカレー食いてえな。晩飯、カレーにすっか」
 数学に飽き飽きしていることを隠そうともせず、運動マットに上体を倒して安西が声をあげた。
「晩飯、安西が作るのか?」と響野がたずねる。
「は? カレーだぜ。んなもん、レトルトだろ」
「うちはルウで作るほうが多いな」
「違うメーカーのレトルト何種類か混ぜるとうめーぞ。うちは兄貴が組み合わせの研究してる」
 窓ぎわのふたりの話に、思わず教科書をる手が止まった。だが、安西の言葉に響野が「なるほど」とうなずいて、そこで会話は終了したようだ。
 黙って視線を戻すと、突然そっぽを向いた俺を不審に思ったのか、教科書から顔を上げた横山が不思議そうにこちらを見ていた。
「水元?」
「あ、ごめん。松本まっちゃんもさ、こういう勉強とかやってるところを見にくればいいのにな」
 まっちゃん、と苦笑気味に横山はくり返す。
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