光の部屋、花の下で。

三尾

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四日目

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 九月。夏休みが明けて学校がはじまると、空き教室の窓の下には、春先と同じく運動マットの上で昼寝をしている安西あんざいの姿があった。
 休み中に彼の家でどんな話し合いや手続きが持たれたのかは知りようもなかったけれど、とにかく転校はしないですんだのだ。
 もっとも、そのことに安心したのはどうやら俺だけだった。
 空き教室のほかのメンバーは安西の事情を何も知らないようだったし、俺より詳しい事情を知っているはずの学級担任や校長とは、彼について気軽に話せる間柄ではなかった。
 夏休み明け初日、クラスに登校してきた安西は、いつも通りのつまらなさそうな顔で自分の席まで歩いていったかと思うと、どさりと腰かけた。初夏の頃に比べれば、周囲の彼に対する危険物扱いは薄れていたものの、椅子にふんぞり返った姿には独特の威圧感のようなものがあって、気軽に声をかけるクラスメイトはやっぱり限られていた。
 目が合うと、片方の口のはしをちょっと上げて笑顔のできそこないのような表情を作る。
 転校してないぜ、と言いたいのか。安西やつの中ではそれが俺への事情説明になるらしい。あまりにそっけないので、「良かったな」という感想をまた口にしそびれた。


 授業が再開して早々に、校内は前期期末テストのあわただしい空気に包まれた。
 定期テストで忙しくなるのは、試験を受ける生徒側も、試験を作る教師側も変わらない。どちらかといえば、百問近いテスト問題を考えなければならないうえに、教え子たちがそれなりの点数を取れるよう、授業時間を使って出題の傾向を解説したりする教師たちのほうが大変そうに見える。
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