光の部屋、花の下で。

三日目

45

　話が抽象的すぎたせいか、響野も不審そうに眉をひそめる。
「それが目を治すことと、何の関係があるんだ？」
「響野はこの家にひとりでいるべきじゃないと思うから」
「ひとりじゃない。水元がいる」
　空想の恋人をうまく想像できなくて苦しんでいる俺に、そんなことを言う。
「……意味が違うよ」
　苛立ちを抑えきれなくてつぶやいたところで、驚いたように目を見張っている彼に気付き、しまったと思った。今のは完全に八つ当たりだ。
「いや、違わないか。ごめん。でも、他にもいるだろ？　俺だけじゃなくて」
　会話の軌道修正をしたくて言葉を探す。本当に話したかったのは、架空の恋人のことでも、俺自身のことでもない。もっと別にあったからだ。
　中学以降の十一年間を響野がどんな風にすごしたのか、全部を知っているわけではなかった。でも、今まで彼が出会った人々の中には、ＳＯＳを出せば俺みたいに応える人間がきっといるだろう。ゼロなはずはない。
「そういう人たちのことを、響野はもっと頼っていいんだと思うよ」
　誰でも、困ったときは誰かに助けを求める権利がある。それは法によって保障されて制度として社会に組み込まれているとも言えるし、人間が生まれながらに持っている性質が助け合うようできているのだとも言える。すべての人間がそうではなくても、困っている他人の力になろうとする人は必ずいる。それが友人や知人ならなおさらだ。
　そう伝えたかったのだけれど、うまく言葉にできた自信はなかった。
　響野の顔には、また、あの表情が浮かんでいる。戸惑いと不安が入り混じった、何かを心配するような顔だ。