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三日目
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――じゃあ、ハーフ?
もしも聞かれたら、今度は答えよう。そう決めていた。響野に話せば、きっと未希ちゃんにも伝わるだろう。
「知らなかった。きれいな色だな」
けれども想定していた質問はなく、響野はあっさりとそんな感想を口にする。本当に色だけしか見ていないのか、何かに気を遣ってそれしか言わなかったのかはわからない。
カレーを食べ終えた響野が皿を下げに席を立ったあとも、きれいな色だな、と言った彼の声がしばらく耳に残っていた。
豪勢なカレーが効いたのか、午後は全員が少しやる気を出して、午前中よりも真面目にプリントに取り組んだ。すでに宿題が終わっている響野と横山は、自由研究のレポートをまとめたり、ほかのメンバーに問題の解き方を教えたりしていた。
窓の外の日が傾きはじめた頃、家のことをやるために響野家を辞した。俺が「そろそろ帰る」と言うと、それが合図になったようにほかの三人も腰を上げる。
家の外は昼の暑さの名残がまだ大気中をただよっていて、空気全体が重量を増したように、もわっと蒸していた。
響野の家族に見送られて玄関を出る。母親と未希ちゃんが「また遊びにきてね」と手をふった。門のないアプローチに立つ四人を、開いたままの玄関ドアから漏れ出た照明が後光のように縁取っていた。
朝に通った道を四人で戻っていく途中、最初に横山が「じゃあ」と別れた。和田の家は公園の反対側に建っているマンションらしく、彼とも公園の入口付近で別れる。ここから川を下って駅前まで戻るのは俺と安西だけだ。そう思っていたら、川の中程にかかる橋のたもとで安西は歩みを止め、「俺こっちだわ」と対岸を指さした。
もしも聞かれたら、今度は答えよう。そう決めていた。響野に話せば、きっと未希ちゃんにも伝わるだろう。
「知らなかった。きれいな色だな」
けれども想定していた質問はなく、響野はあっさりとそんな感想を口にする。本当に色だけしか見ていないのか、何かに気を遣ってそれしか言わなかったのかはわからない。
カレーを食べ終えた響野が皿を下げに席を立ったあとも、きれいな色だな、と言った彼の声がしばらく耳に残っていた。
豪勢なカレーが効いたのか、午後は全員が少しやる気を出して、午前中よりも真面目にプリントに取り組んだ。すでに宿題が終わっている響野と横山は、自由研究のレポートをまとめたり、ほかのメンバーに問題の解き方を教えたりしていた。
窓の外の日が傾きはじめた頃、家のことをやるために響野家を辞した。俺が「そろそろ帰る」と言うと、それが合図になったようにほかの三人も腰を上げる。
家の外は昼の暑さの名残がまだ大気中をただよっていて、空気全体が重量を増したように、もわっと蒸していた。
響野の家族に見送られて玄関を出る。母親と未希ちゃんが「また遊びにきてね」と手をふった。門のないアプローチに立つ四人を、開いたままの玄関ドアから漏れ出た照明が後光のように縁取っていた。
朝に通った道を四人で戻っていく途中、最初に横山が「じゃあ」と別れた。和田の家は公園の反対側に建っているマンションらしく、彼とも公園の入口付近で別れる。ここから川を下って駅前まで戻るのは俺と安西だけだ。そう思っていたら、川の中程にかかる橋のたもとで安西は歩みを止め、「俺こっちだわ」と対岸を指さした。
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