光の部屋、花の下で。

三日目

23

「それは子供のうちだけだ。大人は殴ったら犯罪だから」
「冗談言えよ」
「冗談じゃない。だから、殴ってくる大人は向こうが悪い」
　安西の瞳の奥に一瞬、不穏な光が宿る。視線を合わせたままでいると、目の奥の殺気はふいに鳴りを潜め、相手は冷めた顔つきになって公園の反対側に顔を向けた。
　安西の視線を追いかけて、緑の外側に広がる街並みをながめる。幅の狭い横道を通りすぎたあたりから街の雰囲気が変わっていた。歩道と車道の道幅が広くなり、マンションや商業ビルのような高層の建物は姿を消して、大きめの一軒家が目立ちはじめる。
　高い石塀に囲まれた日本風の瓦屋根の家があるかと思えば、青々とした芝生が玄関先まで続くアメリカ西海岸風の家もあった。サンタクロースが通れそうな太い煙突のある家。外壁に焼杉を使ったログハウス風の家。それぞれが自己主張の強い外観をしているにも関わらず、落ち着いた色合いの家が多いことと、家同士の間隔が広めに取られていることもあって、街全体の調和は意外に取れていると感じる。
「でけー家ばっかだな」
　安西のつぶやきが耳に届いたとき、横山が立ち止まって、「あそこ」と右手の先を指さした。
　個性が強めな家々の中では比較的シンプルな、緑に埋もれたような外観の家だった。玄関アプローチの手前には門がなく、代わりに、訪問者を出迎えるように白っぽくて丸い葉っぱの樹が植わっている。
　この位置からでは見えないけれど、裏手には他の家と同じくメインの庭があるのだろう。平たい屋根を持つ白い建物の向こう側に、木々の枝が揺れる気配を感じてそう思う。