光の部屋、花の下で。

三日目

22

「うん、同小おなしょうだった。あとクラブが一緒。科学クラブっていうんだけど」
「技術部みたいな？」
「もうちょい理科っぽいやつ。実験やったり、地層を見にいったり」
「へえ……面白い？」
「地層はつまんなかった」
　平和な会話を耳に入れつつ、ふたりの後ろを歩く。木々のあいだから夕立のようにセミの声が降り注いでいた。
「小四のとき、俺、いじめられてて」
　蝉時雨せみしぐれの中で、唐突に横山は話しだす。
「いじめっていうか……いじられっていうか……クラスのやつらに。でも、クラブでは関係なくて。響野は何か、ずっと普通だった。別クラだったせいかもしれないけど。放課後、一緒にゲームしたり」
　とつとつと話していた横山は、そこでふいに口をつぐんだ。襟足を刈りあげた太い首の後ろで汗が玉を作っている。
　尻切れになった言葉の先を促すべきかどうか誰も判断ができなくて、つかの間、沈黙が降りた。じゃりじゃりとアスファルトの上を移動する足音と、セミの声。
「“だから何”っていうのは――うまく言えないけど……」
　そうなんだね、と和田がつぶやいた。
「やり返さねえからつけあがるんだぜ」
　つまらなさそうに言ったのは安西だ。
「ナメてくるやつは、とりあえず顔面に一発入れときゃ、あと何もしてこねーよ」
　また適当なこと言ってるな、と視線を向ける。前を歩いていた和田と横山も後列にいる安西をふり返った。
「コイツなら勝てそうと思って仕掛けてくんだ。引けば引いただけ調子に乗るぜ。やり方は何でもいーから、最初に勘違いさせねえのが肝心なんだよ」
　横山は顔を強ばらせながらも「あ、うん」などとうなずいている。反論しづらそうな彼に「横山」と呼びかけた。