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三日目
20
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「水元はどうだ? 図書館より近そうなら」
「うん、行く。ありがとう」
特別な意味で呼ばれたのではなくても、彼が俺に気を遣ってくれたことはわかる。ことわる理由などなかった。
家の場所は横山が知ってるから、と響野に言われて、その場で訪問日時と待ち合わせ場所を決めた。
相談が終わると、弁当を食べ終えた響野と横山は午後の部活に戻っていく。安西はいち早く技術工作室からいなくなったけれど、響野の家に行く算段をしていたときはその場にいたから、当日もたぶんくるだろう。
午後も少しだけワークをこなし、空腹が耐えがたくなってきたところで和田と示し合わせて勉強を切り上げた。
「友達の家に行くの久しぶりだなー。楽しみ」
一緒に帰る途中で和田は言った。
「俺も」
そう相づちを打って、川の手前で彼と別れる。くだらない見栄を張った気まずさを引きずりながらアパートの二階に帰り着いた。
本当は、友達の家に誘われたのは初めてだった。俺を家に呼ぶような友達は、小学生のときも、中学生の今にいたるまでもいなかった。
黄みがかった西日の射し込む部屋でカレンダーに印をつけながら、桜の下で見かけた響野の家族の姿をまた思い出していた。
待ち合わせ場所の公園は、山の勾配をそのまま利用した土地に植物園やアスレチックなどを備える大型の公共施設だった。町の北側の一角を占めており、近隣の小中学校の遠足コースにもなっているから、町で育つ子どもの大半は、義務教育のあいだに何度かおとずれることになる。
公園の入口まで行くと、門の横にはすでに横山の丸っこいシルエットが待っていた。肉づきの良い背中に黒いリュックを下げている彼に、「おはよ」と声をかける。
「うん、行く。ありがとう」
特別な意味で呼ばれたのではなくても、彼が俺に気を遣ってくれたことはわかる。ことわる理由などなかった。
家の場所は横山が知ってるから、と響野に言われて、その場で訪問日時と待ち合わせ場所を決めた。
相談が終わると、弁当を食べ終えた響野と横山は午後の部活に戻っていく。安西はいち早く技術工作室からいなくなったけれど、響野の家に行く算段をしていたときはその場にいたから、当日もたぶんくるだろう。
午後も少しだけワークをこなし、空腹が耐えがたくなってきたところで和田と示し合わせて勉強を切り上げた。
「友達の家に行くの久しぶりだなー。楽しみ」
一緒に帰る途中で和田は言った。
「俺も」
そう相づちを打って、川の手前で彼と別れる。くだらない見栄を張った気まずさを引きずりながらアパートの二階に帰り着いた。
本当は、友達の家に誘われたのは初めてだった。俺を家に呼ぶような友達は、小学生のときも、中学生の今にいたるまでもいなかった。
黄みがかった西日の射し込む部屋でカレンダーに印をつけながら、桜の下で見かけた響野の家族の姿をまた思い出していた。
待ち合わせ場所の公園は、山の勾配をそのまま利用した土地に植物園やアスレチックなどを備える大型の公共施設だった。町の北側の一角を占めており、近隣の小中学校の遠足コースにもなっているから、町で育つ子どもの大半は、義務教育のあいだに何度かおとずれることになる。
公園の入口まで行くと、門の横にはすでに横山の丸っこいシルエットが待っていた。肉づきの良い背中に黒いリュックを下げている彼に、「おはよ」と声をかける。
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