光の部屋、花の下で。

三尾

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三日目

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 ホテルの部屋に置いていたボストンバッグとビジネスバッグを回収して戻ってくると、待っていた彼に一階の客間を案内された。玄関を入って居間とは反対側の奥にある和室だ。ほとんど使われていないのか、畳敷きのまだ新しい室内は、旅館の客室みたいにきれいに片付いていた。
 電車が停まり、車両のドアがぷしゅーと音をたてて開く。平日の正午すぎ、鈍行から降りる客の数は多くない。
 駅前から響野の家までは、徒歩で十二、三分ほどの距離だった。ゆるい上り坂をしばらく行くと、もともとあった山を整備して作られた大きな公園にぶつかる。
 彼の家は公園のすぐとなりにあった。敷地を取り囲む庭木のあいだから白い外壁とバルコニーの銀色の柵が見える。借り物の鍵でドアを開け、家の奥に向かって「ただいま」と声をかけた。リビングをのぞくと、響野が窓ぎわのソファから身体を起こしたところだった。
「おかえり」
 彼はいつも通り音の聞こえる方向に顔を向けて応える。
 手にしているスマートフォンから独特のイントネーションの合成音声が流れていた。スマホが備える機能の一つで、視覚障害者向けに画面上の文字を人工の声に変換して読み上げることができる。
 昨日から彼がひとりで何かしているときは、たいてい、こんな風に機械をいじっていた。スマホに視覚補助用のアプリをインストールしたり、スマートスピーカーを使って音声で買い物ができるようにしたりと、俺とはまったく異なるアプローチで彼なりに生活上の不便を減らそうとしているようだ。
 今、聞こえているのはメールの読み上げだろうか。人間の女性を模した高い声が響野の体調を気遣っている。
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