光の部屋、花の下で。

三尾

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二日目

35

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 空き教室で聴くためにCDを何枚も学校に持っていった。気付けば安西もそうするようになっていた。放課後は、家へ帰る前に特別教室棟に立ち寄ってラジオや音楽を聴き、その場にいる誰かと雑談をするのが日課になった。
 子猫たちも空き教室と和田の家を往復して大きくなった。和田はしばらく休み時間になるたびに特別教室棟に入り浸っていた。俺や響野も彼に協力して猫の世話を手伝ったり、飼い主探しのポスターを貼ってまわったりした。
 橙色だいだいいろのしま模様が入った子猫たちのことは、今でもよく覚えている。献身的なケアの甲斐あって、四匹の子猫は一匹も欠けることなく、それぞれの新しい飼い主の元へともらわれていった。
 十一年の歳月が逆流し、金色のほこりが舞う空き教室の光景がよみがえる。
「いらないよ。友達が困ってるときに力を貸してお金をもらうってヘンだろ」
「変じゃない。フェアにしたいんだ」
 そう言う相手の顔は、困惑しているというよりも途方に暮れているように見える。
 説明の必要を感じて、あらためて自分の仕事について話した。高齢者介護施設で入所者の生活をサポートする仕事。その大部分は、食事や入浴、排泄といった身体の介助で、響野が抱える困難とは困りごとの種類が違う。
 響野は俺の説明を難しい顔で聞いていた。かえって不安を与えてしまっただろうかと心配になったとき、相手の目が何かを探すようにソファの上をさまよう。ためらいがちに何度か口を動かしたあと、彼は膝の上で組み合わせた手に力を込めて、「正直を言えば、見えないのは怖いよ」と言った。
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