51 / 377
二日目
26
しおりを挟む
響野は、パーのかたちに広げられた俺の手をまじまじと見たあと、あまり慣れていなさそうな手つきで、ぱしりと手のひらを合わせた。
「すごいな! ほんとに直った。ありがとう」
俺があんまりニコニコしていたせいか、「ああ」とうなずいた響野の顔にもつられたような笑みが浮かぶ。
「ピックアップのほうで良かったな」
「ピックアップって?」
「ふたの下にあるレンズの部分。要は、セットしたCDを本体が認識できてなかったんだ。わりとよくある故障だよ」
「へえ」
よどみない説明に感心した。
「パーツを交換したわけじゃないから、中の部品に寿命がきたらまた動かなくなると思う」
ちょうど哺乳瓶を洗って戻った和田が、教室に流れている音楽を聞いて「あ、修理できたんだ?」とたずねる。
イヤホンをすり抜けて音が聞こえたのか、窓際で寝ていた安西も身じろぎをした。……だけでなく、のそりと起きあがってマットの上にすわり直したので、何だろう?とそちらを見る。
「フーファイ、水元の?」
「え? うん。おやじのお下がりだけど」
響野が床の上のダンボール箱にちらりと視線をやってから、ボリュームのつまみをひねって音量を下げた。子猫たちの安眠に配慮したらしい。
「そうだ、響野、お礼させてよ。何がいい?」
すでに工具箱を片付けはじめている相手にたずねる。
「別にいらない」
「まあ、俺もそんなにたいしたものをあげられるわけじゃないけど、一週間パシリとかなら全然やるよ」
「そんなことする必要ないだろう」
「購買のパンとか欲しいときに便利じゃない? ちょっと買ってこいとか」
響野が眉をひそめた。気乗りしなさそうな、というよりは多分に不機嫌そうな相手の様子を見て、“パシリは嫌い”と頭の中のメモに書き加える。
「すごいな! ほんとに直った。ありがとう」
俺があんまりニコニコしていたせいか、「ああ」とうなずいた響野の顔にもつられたような笑みが浮かぶ。
「ピックアップのほうで良かったな」
「ピックアップって?」
「ふたの下にあるレンズの部分。要は、セットしたCDを本体が認識できてなかったんだ。わりとよくある故障だよ」
「へえ」
よどみない説明に感心した。
「パーツを交換したわけじゃないから、中の部品に寿命がきたらまた動かなくなると思う」
ちょうど哺乳瓶を洗って戻った和田が、教室に流れている音楽を聞いて「あ、修理できたんだ?」とたずねる。
イヤホンをすり抜けて音が聞こえたのか、窓際で寝ていた安西も身じろぎをした。……だけでなく、のそりと起きあがってマットの上にすわり直したので、何だろう?とそちらを見る。
「フーファイ、水元の?」
「え? うん。おやじのお下がりだけど」
響野が床の上のダンボール箱にちらりと視線をやってから、ボリュームのつまみをひねって音量を下げた。子猫たちの安眠に配慮したらしい。
「そうだ、響野、お礼させてよ。何がいい?」
すでに工具箱を片付けはじめている相手にたずねる。
「別にいらない」
「まあ、俺もそんなにたいしたものをあげられるわけじゃないけど、一週間パシリとかなら全然やるよ」
「そんなことする必要ないだろう」
「購買のパンとか欲しいときに便利じゃない? ちょっと買ってこいとか」
響野が眉をひそめた。気乗りしなさそうな、というよりは多分に不機嫌そうな相手の様子を見て、“パシリは嫌い”と頭の中のメモに書き加える。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。
丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。
イケメン青年×オッサン。
リクエストをくださった棗様に捧げます!
【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。
楽しいリクエストをありがとうございました!
※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない
すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。
実の親子による禁断の関係です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる