光の部屋、花の下で。

三尾

文字の大きさ
上 下
38 / 377
二日目

13

しおりを挟む
 最初に髪のことを指摘されたのは入学の翌日だった。
 生まれつきだと答えたら、地毛証明書を出すように言われた。申請には保護者のサインと、確かに地毛であることを確認できる証明写真が必要だった。
 一、二歳当時のものを、という説明書きを読んだおやじは、その場で俺が預かってきた証明書をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨てた。さらには、わざわざ学校まで出向いていって、「あんたらに息子の尊厳を踏みにじる権利はない」とたんかを切ったらしい。
 後日、おやじの学校突撃の話を知って、何とも言えない気分になった。
「“赤ん坊の頃の写真はありません”って言えばよかったんじゃない?」
「そういう問題じゃねえだろ。髪が黒じゃねえやつは、犯罪者か何かなのかよ?」
 家にある俺の写真は、おやじと母親が結婚してからのもので、五歳以前に撮影されたものは一枚もない。母親が赤ん坊の俺の写真を撮ったかどうかは知りようもなかった。仮に撮っていたとしても、それは彼女と一緒に失われている。
 そんな事情を説明する代わりに、おやじは「息子の髪については今後いっさい、どんな要請も受け付けない」と譲ろうとしなかった。
 もしかしたら、彼が守りたかったものは、俺の尊厳であると同時に、母親の名誉でもあったのかもしれない。ひどく要領の悪いやり方ではあったけれども。
 春の日差しが射し込む教室で、黒板の数式を書き写しながら首をめぐらせる。
 “ア行”の列の、前から二番目の席は空だった。
 あそこでも、要領悪く何かと戦っているやつがいる。
 小さく息を吐き――そして、CDラジカセを持ち込む場所の心当たりを思いついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。

丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。 イケメン青年×オッサン。 リクエストをくださった棗様に捧げます! 【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。 楽しいリクエストをありがとうございました! ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

処理中です...