光の部屋、花の下で。

二日目

10

　正直、ロボットについてはまったくわからなかったけれど、思いのほか熱い技術部の様子に感化されて、もう一度雑誌のページをめくった。今度はきちんと手に取り、ちょうど空いていた響野の前の席に腰かける。
「水元もこういうのに興味あるのか？」
　それまで下から聞こえていた声が、すわったことで顔の横から聞こえてくるようになった。
「いや、すごいと思うけど、自分が作れる感じはしないかな。ゼロからパーツを組むんだろ？　モーターとか、センサーとか」
「そうだ。詳しいじゃないか」
「ここに載ってることを言ってみただけだよ」
　響野が身を乗り出して俺の手元を覗き込む。警戒を解いた猫が近づいてきたみたいで、胸の奥がざわりと動いた。嬉しさと、何か間違えばすぐに逃げられてしまいそうな焦りと。
　もう相手の顔を直視できないということはなかった。むしろ雑誌を見下ろしている響野の切れ長の目から視線をそらすのに多少の労力が必要だった。まつげも真っ黒なんだな、などと考えていて。
「じゃ、何に詳しいんだよ？」
　ページを見ていた顔を上げて響野がたずねる。
「別に、何も……音楽なら聴くけど――」
　そう言いかけたところで、ひらめくものがあった。
「あのさ、響野ってロボットを作れるなら、ラジカセも直せる？」
「ロボットは、まだできてない」
「つまり作ってるんだろ？」
「動作がイマイチで原因を探ってるところだよ。何だ、ラジカセって？」
「……あー、このあいだ拾って……」
　先日の粗大ゴミの日に廃品回収場でＣＤラジカセを見つけたことを話す。
　ひと昔、もしかしたら、ふた昔くらい前に発売されたと思しき、年期の入った機種だった。古いわりに目立った破損部分もなかったので、家に持ち帰ってコンセントにつないでみた。