光の部屋、花の下で。

一日目

23

　だから、もしかすると安西には報告義務があるのかもしれない。そう思って、「あのさ」と口を開く。
「中学では、違う風にしようと思う」
　相手は無言のまま横目の視線を投げてきた。何言ってんだこいつ、と言いたげな目つきだ。
「ちゃんとやる。おやじに迷惑かけたくないし」
　安西はまだ微妙な顔つきだったけれど、紙袋をうっとうしそうに持ち直し、「あっそ」と短く言った。
　木立が途切れ、学校の境界を示す緑色のフェンスに行き当たる。しばらく歩くと、フェンスの一部が扉になっていたので、そこから外に出た。
　普段は運動部でにぎやかなグラウンドは、春休みのせいか、あるいは入学式のために部活動が休みになったのか、ほとんど人影がない。自主練らしい運動部員が何名か、すみのほうでランニングや素振りをしている。
　こんな場所を入学式当日にうろつく新入生はいなかったので、大きな紙袋を下げた俺と安西は、ひどく場違いだった。
「ちゃんとやるって、あーいうやつか？」
　遠くを走る運動部員たちを顎で示しながら、気のなさそうな口調で安西がたずねる。
「どうだろ」
　つぶやいたあと、その先に続ける言葉を探して、少し黙った。
「……もうちょっと、先のことを考えてたかな」
「ふーん」
　膝丈くらいの小さな植え込みをまたいで学校の外の道に出る。広めの車道の両側に続く歩道を、正門の方角からやってきた入学式帰りの家族がちらほらと歩いていた。