光の部屋、花の下で。

三尾

文字の大きさ
上 下
22 / 377
一日目

21

しおりを挟む
 息子のほうは見た目からして同学年だった。売り物のように塵一つ付いていない学生服と、重量感のある紙袋。入学式で配られた一本ずつ透明のフィルムにくるんだバラの花は、彼の妹が何かの戦利品のようにしっかりと握っている。
 カメラをのぞきこんでいた父親が、タイマーをセットして妻と子供たちの輪に加わった。レンズに顔を向けた家族は、四者四様の表情を浮かべる。四人の背後には桜が、中心にはバラの花が揺れている。
 三脚のそばを通りすぎようとしたとき、息子の顔が動いてこちらを見た。黒い瞳と視線がかち合いそうになるのを、とっさに顔をそらして避ける。
 一、二ヶ月前の自分だったら、にらみ返していただろう。「何見てんだ」と難癖のひとつもつけたかもしれない。目が合った相手は反射的に威嚇する癖がついていたからだ。裏駅あたりのガラの良くない一帯でそんな態度をとれば、子供でも無用なトラブルに見舞われることがあったから、小学生の頃は生傷が絶えなかった。
 中学校への進学を機に、そうした攻撃的な態度は改めることにした。
 正門に近づくと、そこもやはり新入生家族の撮影スポットになっていた。黒々とした人だかりを抜けるのをおっくうに感じて、校舎と運動場のあいだに植わっているツツジの茂みをかきわけ、グラウンド側へ逃げる。境目の木立の中を歩いて学校の敷地の外を目指すつもりだった。
 植え込みを抜け出たところで、同じことを考えたらしい人物に出くわした。大量の教科書が入った紙袋を邪魔そうに下げた人影が、数メートルほど先を歩いている。
 げ、と顔をしかめたのと同じタイミングで、向こうも背後を振り返り、俺に気が付いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。

丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。 イケメン青年×オッサン。 リクエストをくださった棗様に捧げます! 【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。 楽しいリクエストをありがとうございました! ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

処理中です...