光の部屋、花の下で。

三尾

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一日目

18

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「もう子供じゃないんだから、困ったときはきちんとSOSを出せよ。今の響野の状況をわかってて心配しないやつなんかいない。おまえがいい大人だから、みんな尊重してずかずか踏みこんでこないだけだろ」
 あまりに不安が募ると人は怒りたくなるらしい。少なくとも自分はそういう人間だったらしい、という事実を、二十五年生きてきて今日知った。
 俺の理不尽な叱責を浴びた響野は、難しい顔でしばらく黙りこんでいた。
「……SOSを出す相手っていうのは、おまえでもいいのか?」
 沈黙の末にそんな質問をしてくる響野も、彼の言葉に救われた気がした自分も、ひどく不可解だと思う。
 ただ、その瞬間、張りつめた糸がたわむ気配があった。夜の部屋の奥からかすかな寝息が聞こえてきたときのように。


 暗がりから通路に戻ると、吹き抜けの天井ではシーリングファンが回っていた。ゆっくりしたプロペラの回転を見ながら後ろ手にドアを閉める。重厚な木製の扉が、ぱたんと外見にそぐわない軽い音をたてた。
 三年前に改装したという家の中は、あまり家具を置かない方針なのか、全体に広々としていて空間に余裕がある。
 明日一日、この場所で響野につきあうと約束した。“SOS”の具体的な内容というのがそれだった。彼が家の中でぶつかったりつまずいたりしないよう、物の配置を見直して、危険そうな物は片付ける。
 なぜそんな流れになったのかといえば、自宅ですごすことに響野がこだわったせいだ。家族の事故の処理でやらなければいけない手続きが残っているから、家を離れたくないと言う。聞けば、病院側が持ちかけた入院の提案もそれを理由にことわったようだった。
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