光の部屋、花の下で。

一日目

15

　遺影は五十がらみの男女と、まだあどけなさの残る若い女性のものだった。男性は若々しい顔立ちに似合わず、豊かな髪が半分以上白くなっている。まっすぐな眉と鼻のラインは響野にそっくりだ。女性ふたりの黒目がちな切れ長の目も、つい先ほどまでソファにすわっていた彼を彷彿とさせる。
「会ってすぐに言っておくべきだった」
　ちょうど今と同じように、遺影に注いだ視線を動かせないでいる俺の横で、響野は言った。
「……ごめん」とあやまられたけれど、あれは何に対する謝罪だったんだろう。
　位牌も線香もない祭壇の寂しさをまぎらわせるように、それぞれの遺影の横には白い花を生けた花瓶がそっと置かれている。
「二週間前、旅行先で事故に遭ったんだ」
　交通事故だった、と響野は言った。高速道路で対向車とぶつかった。
　家族と自分に起きた出来事を説明する彼の声は落ち着いていて、話し方もよどみなかった。きっと何度も同じ話をしたのだろう。ばあちゃんが亡くなったときのおやじがそうだった。訃報と葬儀の連絡のためにあちこちへ電話をかけながら、幾度となく同じ話をくり返していた。
　病院で会ったときのように、ぴりぴりした危うさをただよわせながら、それでも響野は淡々とふるまっていた。宗教色の薄い祭壇を前に、祈り方の作法がわからなくて、俺が「手を合わせてもいい？」とたずねたときには、「好きでいいよ」と笑いさえした。
「うちの親なら、何か希望があったらそう言い残してるだろうから。“三べん回ってワンと言え”とかさ」
　そんな、身内にしか許されないであろう不謹慎な軽口を叩く。笑えなかったけれど。
　均衡が崩れたのは、電話がかかってきたあたりからだった。