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一日目
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グラスに水が溜まっていくのを待つあいだ、久々に母親のことを思い出していた。
何年ぶりだろう。沼の底から浮かびあがってくる気泡のようにぽこぽことはじける記憶に戸惑って、グラスが半分ほど満ちたところで水を止める。
リビングに戻ると、大きめのソファに響野がすわっていた。近づいていく俺の足音を聞きとめたのか、黒い頭が動いてこちらを向く。
「あったか?」
少しずれた方向に向けられた相手の視線を受け止めて「あったよ」と答えた。水の入ったグラスをローテーブルに置くとき、手首に下げていた白いポリ袋が揺れた。
昼間、病院で響野と再会したあと、処方箋を持っていた彼に代わって薬局まで薬を取りにいった。色々あったせいで本人に渡しそびれていたのを、つい先ほど思い出したのだ。
ポリ袋の中からアルミシートに納まった錠剤と四つ折りの紙を取り出す。紙のほうは薬の効能や服用方法が書かれている説明書のようなものだ。正式名称を“薬剤情報提供書”といったはずだけれど、ほとんどの患者は、別に知らなくても支障のない知識だろう。
アルミシートに納まった小ぶりの錠剤にも見覚えがあった。
目が効かない響野に替わって、四つ折りの“薬剤情報提供書”を広げて読み上げる。寝つきを良くするお薬です。ふらつき、めまい、倦怠感などの副作用が出る場合があります。服用後は車の運転を避けてください。
読み終えたところで、俺の説明を黙って聞いている響野に視線を移す。
「もし、あまりふらつくようだったら教えて」
相手がうなずくのを見たあと、シートから錠剤を取り出して手のひらに乗せた。グラスを渡そうとしたころで、ふいに響野が「薬が嫌いなのか?」と聞いてくる。
何年ぶりだろう。沼の底から浮かびあがってくる気泡のようにぽこぽことはじける記憶に戸惑って、グラスが半分ほど満ちたところで水を止める。
リビングに戻ると、大きめのソファに響野がすわっていた。近づいていく俺の足音を聞きとめたのか、黒い頭が動いてこちらを向く。
「あったか?」
少しずれた方向に向けられた相手の視線を受け止めて「あったよ」と答えた。水の入ったグラスをローテーブルに置くとき、手首に下げていた白いポリ袋が揺れた。
昼間、病院で響野と再会したあと、処方箋を持っていた彼に代わって薬局まで薬を取りにいった。色々あったせいで本人に渡しそびれていたのを、つい先ほど思い出したのだ。
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読み終えたところで、俺の説明を黙って聞いている響野に視線を移す。
「もし、あまりふらつくようだったら教えて」
相手がうなずくのを見たあと、シートから錠剤を取り出して手のひらに乗せた。グラスを渡そうとしたころで、ふいに響野が「薬が嫌いなのか?」と聞いてくる。
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