光の部屋、花の下で。

三尾

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一日目

7

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 自動ドアの方向から聞こえてきた「ポーン」という電子音に、もの思いから覚める。両開きのドアが開閉のたびに鳴らすチャイムは、音楽室にあった鉄琴の音によく似ていた。
 会計エリアの前に設けられたベンチは、待合スペースも兼ねているようで、午前の診察終了がせまった今の時間も、まだ多くの人影があった。患者やその家族とおぼしき人々が、声をひそめて会話をしたり、俺と同じように人待ち顔ですわっていたりする。
 人が通り抜けたあとの自動ドアが静かに閉まっていくのを確認してから、スマホの画面に表示させた本に目を落とした。
 ここ数年、買って読む本はほとんど電子書籍になっている。1Kの狭い自宅に紙の本は贅沢品だ。スマートフォンと電子書籍が普及したおかげで、どの本を処分してどの本を残すべきかという悩みから解放されたのはありがたかった。
 けれども今は、画面の文字の上を目がすべっていくばかりで、内容が何一つ頭に入ってこない。
「ポーン」と再び、自動ドアが鉄琴の音を奏でた。用事を済ませた外来患者が、またひとり病院を出ていく。
 左右に開いた扉を通り抜ける男性の後ろ姿を見送ってから室内に目を戻したとき、待っていた相手の姿が視界に飛び込んできた。ロビーのエレベーターが開き、数人の乗客とともに響野が降りてくる。看護師に付き添われて、車椅子にはもう乗っていなかった。
 看護師はエレベーターから続く長いスロープまで彼を誘導したあと、会計窓口を示しながら何事か説明していた。響野が了解したようにうなずくと、軽く会釈をして折り返しのエレベーターで上の階に戻っていく。
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