光の部屋、花の下で。

三尾

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一日目

6

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 響野ひびの、だよな?
 舌の真ん中あたりまで出かけた名前を、口にする直前でためらって、結局飲み込む。
 本人だ、間違いない。十年以上も経っているけれど――わかる。
 足早に病院の中に戻り、運転手にはしょった部分も含めた全部の事情を受付で話して車椅子を借りた。混乱している頭とは裏腹に、身体はいつもの仕事をなぞるように迷いなく動いた。
 タクシーから降りようとする響野に軽く声をかけ、手と腕を支えて車椅子に誘導する。ふれられても、相手はおとなしく誘導されるだけでこちらに気付く様子はなかった。
 車のシートから立ち上がった姿を見て、背が伸びたなと思う。体型はあまり変わらず、ひょろりとしている。視線の交わらない瞳の奥には、ほとんど感情の波が立たなくて、そのことがどうにも気がかりだった。
 待合スペースに着いた響野が看護師に付き添われながら問診を受けるのをながめていると、事務スタッフが近づいてきて「あとは大丈夫ですから」とささやく。
「面接ですよね?」
「あっ」
 九時五十七分。あわててベンチに置いていた鞄を持ち上げた。スタッフの女性がにこりと笑って頭を下げる。
「ありがとうございました。うまくいくといいですね」
 福祉サービスセンターに向かう前に、まだ問診に答えている響野をもう一度ふり返った。
 看護師と向かい合う横顔は、相変わらず表情に乏しくて、そしてやっぱり顔色が悪かった。


 響野伸也しんやと一緒にいたのは、十年以上も前のことだ。
 正確には十一年前。
 ふたりともまだ中学生で、黒い詰襟の学生服を着ていた。
 毎日教室で顔を合わせて、放課後も校内の使われていない教室に潜りこんでは、とりとめもない話をした。
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