光の部屋、花の下で。

三尾

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一日目

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「目が見えなくなっちゃったんだってさ、急に」
 説明するように背後で運転手が言う。どこにサポートが必要なんだろう?というこちらの疑問が空気か何かになってにじみ出ていたのかもしれない。聞いたら思いのほか緊急性の高そうな案件だったので緊張した。
「おはようございます」
 タクシーの後部ドアを開けて声をかけると、車内の男は顔を上げた。声の出どころを探るようにドアのほうを向いた目は、なるほど焦点が合っていない。よく見ると、顔色も心配になるレベルで青白かった。
 大丈夫ですか?と気遣う場面だったし、いつもの自分ならそうしていた。けれど、至近距離で相手を見た瞬間、何かが頭のすみに引っかかる。倍速で動画を観ていて重要なシーンをすっ飛ばしたときのように、焦りながら動きを止めて、目の前の男の中に違和感の正体を見出そうとした。
 相手の直線的な頬のラインや尖り気味の顎。まっすぐな眉と鼻。いかにも怜悧な印象を受ける造作の中で、長いまつげの奥は、そこだけ夜の空のように深くて底のない感じがした。
「あ」
 思わずあげた声に、車内の男は眉をひそめる。黒い瞳がもの問いたげに一回まばたきをするのが見えた。そのしぐさも、昔よく目にしていたものと同じだった。
「あの、車椅子のほうがいいと思うので、持ってきます。……乗っていただけますか?」
 とっさに仕事用の声で、仕事用のせりふを口にする。
 相手は無言でうなずくと、一拍遅れて「はい」と返事をした。外見の印象を裏切らず、受け答えも淡々としている。必要最低限。そんな感じだ。低い声はちゃんと大人の男のものだった。
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