光の部屋、花の下で。

三尾

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一日目

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 こちらが小さく頭を下げると、頭髪とひげに白いものの混じった運転手は自分も会釈を返した。
 ふと病院の掲示板で見た張り紙を思い出す。
『タクシーの送迎は専用の乗降場をご利用ください。サポートの必要な方は病院玄関口まで乗り入れできます。』
 専用の乗降場はあっちですよ、と教えてあげるべきだろうか?
 だけど、相手の様子はそういう迷い方とも違う気がした。ハンドルに両腕を乗せた運転手が再び玄関口にちらりと視線を送ったのを見て、タクシーのほうへ身体を向ける。
 はっきりと何かを考えたわけではなかった。ただ、職業柄、人が手を貸してほしいと思っているときは何となくわかる。
 すでに十分減速していたタクシーは静かなブレーキ音をたてて停止し、運転席のドアを開けて運転手が降りてきた。
 そちらへ向かって歩きながら、車椅子の客でも乗せているのかな?とようやく思いつく。考えるより先に身体が動くのも、自分のような仕事をしている人間にはありがちなことだった。職業病なだけで、生まれつきの性格ではない……と思う。
「ああ、お兄さん病院の人?」
 病院に向けて何歩か歩きかけていた運転手が立ち止まった。
「患者さんを乗せてるんだけど、ひとりじゃ歩けそうもないから手伝ってやってよ」
 病院の人じゃないです、という説明は長くなりそうだったので省略した。
 代わりに「わかりました」とうなずいて、タクシーの窓から中を覗く。
 後部座席に背の高い人影がすわっていた。ジーンズにシャツという、ごく普通の出で立ちをした若い男だ。見たところ、身体に不自由な部分もなさそうだった。
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