上 下
444 / 446
番外編:異土の乞食となるとても

セイのこと②

しおりを挟む
「ノアの恋人だよね。じゃ、子供あつかいはやめる。自分の判断できてくれたんでしょ? あたしはもう気にしてないから、ノアをよろしくね」

 セイはあいまいな表情で笑ったあと、「ありがとうございます」と言った。

「でも、俺はノアさんの恋人じゃありません。ノアさんは、特定の恋人は持たない主義みたいです」
「なにィ?」

 こちらの声に不穏なものを感じ取ったのか、セイは軽く目を見張ったあとで、しまった、と言いたげな顔になる。がしかし逃がすわけにはいかない。
 あたしは「ちょっと」と手招きしつつ、相手に自分のそばへ座るよう促した。
 しばらく逡巡していたセイは、観念したのか、指定された場所におとなしく腰を下ろす。

「詳しく聞かせてくれる?」
「……ノアさんのことは、推測でしかないので……俺の話でもいいですか?」

 困ったように、セイは聞き返した。
 へえ、いい子だな。子供あつかいはしないと言ったそばからなんだけど、一丁前にノアをかばおうとしているのがわかって、笑みをこらえるのに苦労する。

 ノアとの関係を説明するために、セイは簡単な身の上話をした。
 中三の頃に関東から引っ越してきたこと。今は、近くの県立高校の三年生であること。ノアの名前や顔は、以前から知っていたが、話すようになったのはここ最近で、自分から声をかけたこと。

 ノアは地元の有名人だから、セイが知っていても不思議ではない。
 彼の目に、ノアの勘当の件はどのように映ったのだろう。自分と同じ人間の身に起きたことは。

 聞くに聞けない問いだったけれど、“俺の話”をすると言った時点で、セイはそれにも言及するつもりでいたようだった。
 彼はなんのてらいもなく、ずっとノアの存在に救われていた、と告げた。

 ノアの取った行動は、本当に強くなければできない。カミングアウトも、出ていくことも、帰ってくることも。
 本やインターネットの中の出来事ではなく、自分が暮らす同じ町の中にノアのような人がいたことが救いになった、とセイは言った。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【本編完結】断罪必至の悪役令息に転生したので断罪されます

BL / 完結 24h.ポイント:15,930pt お気に入り:2,613

箱庭と精霊の欠片 すくうひと

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:85

【完結】【R18】婚約破棄から十年後、元婚約者に呪われた。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:2,043

✕✕が弱い俺の社内事情

BL / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:371

極悪令嬢は清楚系美女になりたい!!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:223

そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:504pt お気に入り:2,071

【R18】高潔なる妖精国の軍人様と花楔の愛玩人形

恋愛 / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:2,617

いつから魔力がないと錯覚していた!?

BL / 連載中 24h.ポイント:12,013pt お気に入り:10,700

処理中です...