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番外編:異土の乞食となるとても

ノアのこと②

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「ふうん、セイっていうんだ? 苗字? 名前?」
「どっちでもない」とノアは答える。
「強いて言えば呼び名かな。ああいうことをするときの」

 変なルールだ、と思ったけれど、突っ込んで聞くことはしなかった。ゲイの文化には詳しくない。でも、ゲイの男性が本名を伏せて相手とコミュニケーションを取ることがあっても不思議ではない気はする。
 ノアが例外なだけで、同性愛を周囲に知られたくない人間も多いはずだ。そう考えれば、セイの警戒心も、むべなるかな、である。

「邪魔しちゃって悪かったね」
「なに、突然」

 あやまると、それまで飄々ひょうひょうと運転していたノアが意外そうにこちらを見た。

「よく考えたら、あたしに怒る権利、ないもん。自分の家じゃないし」
「あそこはカノンの家だよ」
「その理屈で言えば、ノアの家でもあるわけでしょ。……でもまあ、ちょい愚痴ってもよければ、行く前にあんたのケータイは鳴らしたからね」

 ノアは、コンソールボックスに置いた携帯電話の着信を見て、「あ、ほんとだ」とつぶやいた。

「全然気付かなかった。じゃ、いいよ。あいこにしよう?」
「そうだね、あいこ」

 あたしはうなずく。“あいこ”というのは、要するに“仲直り”という意味だ。あたしたち姉弟の符丁ふちょうだった。

「それにあれ、二回目だったから、中断してもまあ、納められるっていうかね」
「二……?」
「だから、風呂場のは二回目。その前に俺の部屋で……」
「加速だ。加速しよう、ノア。面会に遅れる!」

 着信に気付かなかったのは、一回目の最中だったからか。
 またしても悟りたくないことを悟ってしまい、気まずさが募った。

 帰省の憂鬱・その3:弟がゲイだ。しかも性にオープンである。


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