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DAY7
65
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「そんなに子供じゃないよ」
こちらを見透かすような相手の言葉に、響野は眉をひそめた。
嘘だ。本心では、自分ならそうするだろうと思っていた。
だが、家族のかたちはそれぞれ違う。人間がひとりひとりみんな違うように。
自分の家族を基準に、他人の家族を測るようなこともすべきではないのだろう。
「お母さんの名前、マリアっていうんだろう?」
響野が言うと、凪いだ海のようだった水元の周囲の空気が、その瞬間だけ波打ったように感じた。
「……話したことあったっけ?」
いや、と響野は答える。
「当てずっぽうだよ。けど、マリはマリアにするつもりだったと花音さんが言ってた」
水元がふれたか動いたか、したのだろう、カーテンが引っ張られてレールの金具がかちゃかちゃと鳴った。
「マリアは、ちょっと浮きそうだよね。日本では」
「親とか親戚の名前を子供につけたりするのは、あっちではよくあることなんだろう?」
「知らない」と水元の返答はそっけない。
「花音さんは、本気でおまえと家族になりたいんだろうと思うよ」
「それは……知ってる」
カーテンレールの金具がまた、上のほうでかちゃりと音をたてる。
「でも、万里は万里だ」
水元の声はしっかりしていた。俺は俺だよ、と告げたときと同じ言い方だった。
「名前が人を縛ることだってある。いくら家族でも、万里や花音さんが俺と同じものを背負う必要はないんだ」
「そう思うなら、おまえも母親から自由になれよ」
「どういう意味?」
こちらを見透かすような相手の言葉に、響野は眉をひそめた。
嘘だ。本心では、自分ならそうするだろうと思っていた。
だが、家族のかたちはそれぞれ違う。人間がひとりひとりみんな違うように。
自分の家族を基準に、他人の家族を測るようなこともすべきではないのだろう。
「お母さんの名前、マリアっていうんだろう?」
響野が言うと、凪いだ海のようだった水元の周囲の空気が、その瞬間だけ波打ったように感じた。
「……話したことあったっけ?」
いや、と響野は答える。
「当てずっぽうだよ。けど、マリはマリアにするつもりだったと花音さんが言ってた」
水元がふれたか動いたか、したのだろう、カーテンが引っ張られてレールの金具がかちゃかちゃと鳴った。
「マリアは、ちょっと浮きそうだよね。日本では」
「親とか親戚の名前を子供につけたりするのは、あっちではよくあることなんだろう?」
「知らない」と水元の返答はそっけない。
「花音さんは、本気でおまえと家族になりたいんだろうと思うよ」
「それは……知ってる」
カーテンレールの金具がまた、上のほうでかちゃりと音をたてる。
「でも、万里は万里だ」
水元の声はしっかりしていた。俺は俺だよ、と告げたときと同じ言い方だった。
「名前が人を縛ることだってある。いくら家族でも、万里や花音さんが俺と同じものを背負う必要はないんだ」
「そう思うなら、おまえも母親から自由になれよ」
「どういう意味?」
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