376 / 446
DAY7
64
しおりを挟む
水元が語った、工場の町にある外国人コミュニティの話や、ポルトガル語を話す隣人の話。同じ県内なのに、彼に聞くまでそんな世界があることを響野は知らなかった。
話している水元自身が、全部自分の空想ではないか、と言っていたことを思い出す。
空想のように感じられるのは、コミュニティにいた日々のことだけだろう。子供の頃にいなくなった母親も、水元にとっては空想上の人物のようにあやふやな存在なのではないだろうか。
「わからないけど……面接で都内に出た帰りに、昔住んでた場所へは行ってみたんだ。知り合いなんていないから、地図を見ながら通りを歩いて。ただの下町だったよ。食べ物屋がたくさんあって、日本人も外国人も日系人もいた」
影が揺れて、カーテンが衣擦れの音をたてる。水元が窓に寄りかかったようだった。
「どんなルーツがあっても俺は俺だよ。配られたカードで生きるしかないのは他の人と一緒だ」
「会いたくないのか?」
「あきらめてる」
落ち着いた声で言われて、それ以上は言い募ることができなくなった。
そうか、と響野はつぶやく。
「こういう話は響野としたくないよ」
顔を上げると、ぼやけた影がこちらを見ていた。視力がおぼつかないのに相手の視線を感じ取ることができるのはなぜなのだろう、と考える。
「もどかしい思いをさせてるんだろうなっていうのがわかるから。“何で探さないんだ?”、“会えるかもしれないのに”って思ってるんじゃないか?」
話している水元自身が、全部自分の空想ではないか、と言っていたことを思い出す。
空想のように感じられるのは、コミュニティにいた日々のことだけだろう。子供の頃にいなくなった母親も、水元にとっては空想上の人物のようにあやふやな存在なのではないだろうか。
「わからないけど……面接で都内に出た帰りに、昔住んでた場所へは行ってみたんだ。知り合いなんていないから、地図を見ながら通りを歩いて。ただの下町だったよ。食べ物屋がたくさんあって、日本人も外国人も日系人もいた」
影が揺れて、カーテンが衣擦れの音をたてる。水元が窓に寄りかかったようだった。
「どんなルーツがあっても俺は俺だよ。配られたカードで生きるしかないのは他の人と一緒だ」
「会いたくないのか?」
「あきらめてる」
落ち着いた声で言われて、それ以上は言い募ることができなくなった。
そうか、と響野はつぶやく。
「こういう話は響野としたくないよ」
顔を上げると、ぼやけた影がこちらを見ていた。視力がおぼつかないのに相手の視線を感じ取ることができるのはなぜなのだろう、と考える。
「もどかしい思いをさせてるんだろうなっていうのがわかるから。“何で探さないんだ?”、“会えるかもしれないのに”って思ってるんじゃないか?」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
33
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる