332 / 446
DAY7
21
しおりを挟む
響野が近付こうとすると、父の手が彼の肩を押さえた。見上げた顔は逆光で暗くなっていて、表情がよくわからない。
横をすり抜けるように祖母が白い部屋に入っていった。
自分も、と行きかけたとき、父の手がやさしく肩を押して響野の身体を後ろに下がらせる。
きょとんと見返すと、ドアノブを握る音が聞こえ、父は目の前で病室の扉を閉めてしまった。
響野は驚いて「おとうさん」と声をあげる。
だが、呼んだはずの自分の声も、応える父の声も聞こえない。閉まったドアの向こうでは、相変わらず妹の泣き声と母のあやす声がしていた。
わけがわからないまま白い扉に両手をついてドアを押した。節のない、なめらかな子供の手。小さい爪。
おかあさん――みき。
家族を呼びながら響野は扉を叩く。
あけて。おとうさん。なかにいれて。
ドアはびくともしなかった。もっと強い力でなければ駄目だ、と思う。
扉を叩き続ける自分の手が次第に大きくなり、皮膚の表面に腱と血管が浮き上がった。ドアノブをがちゃがちゃと回し、響野は白いドアを力任せに引っ張る。
「父さん!」
扉を叩き続けていると、部屋の中から声がした。
父の声でも、母の声でも、祖母の声でもなかった。
電話ごしのような少しくぐもった高い声。最後に聞いた家族の声だった。
横をすり抜けるように祖母が白い部屋に入っていった。
自分も、と行きかけたとき、父の手がやさしく肩を押して響野の身体を後ろに下がらせる。
きょとんと見返すと、ドアノブを握る音が聞こえ、父は目の前で病室の扉を閉めてしまった。
響野は驚いて「おとうさん」と声をあげる。
だが、呼んだはずの自分の声も、応える父の声も聞こえない。閉まったドアの向こうでは、相変わらず妹の泣き声と母のあやす声がしていた。
わけがわからないまま白い扉に両手をついてドアを押した。節のない、なめらかな子供の手。小さい爪。
おかあさん――みき。
家族を呼びながら響野は扉を叩く。
あけて。おとうさん。なかにいれて。
ドアはびくともしなかった。もっと強い力でなければ駄目だ、と思う。
扉を叩き続ける自分の手が次第に大きくなり、皮膚の表面に腱と血管が浮き上がった。ドアノブをがちゃがちゃと回し、響野は白いドアを力任せに引っ張る。
「父さん!」
扉を叩き続けていると、部屋の中から声がした。
父の声でも、母の声でも、祖母の声でもなかった。
電話ごしのような少しくぐもった高い声。最後に聞いた家族の声だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
33
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる