ポケットのなかの空

ＤＡＹ６

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「和田に？　……どこで？」
「ボルネオ。コタキナバルに行ったとき、空港でバッタリな。何か大学の研究室にいてジャングルの動物を調べてんだとよ。すげえ偶然だろ？　こっちも」
　おまえの家族のこと伝えておいたぜ、とそこだけは神妙な声で言われて、響野は口元を押さえていた手を下ろした。
「たまには日本に帰るらしいから、そのうち会えんだろ」
「元気そうだったか？」
「おお、わけのわかんねえ大人になってたぞ、あいつも」
　一転して威勢のいい口調に切り替わって安西が答える。あいつもの“も”は、誰にかかっているのだろう？と細かいことを響野は考えた。
「動物に関わる仕事をしてるのか？」
「学生だって言ってたな。たぶん博士課程ドクターだろ」
「すごく和田らしい生き方をしてそうだ」
「歳食としくってもやってることが変わってねえよ」
　実際には、捨て猫を保護するのと、ジャングルの野生動物の研究ではだいぶ違うだろう。しかし、大人になった今の和田を知らないから、響野にとっても、そう言われて浮かんでくるのは空き教室で草の根的な動物保護活動に勤いそしんでいた中学生の和田将大まさひろだった。
「じゃな。行く前にまた連絡する」
　不祝儀はいらないから、と響野が言うと、わかったよ、と応えて安西の電話は切れた。