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DAY5
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「水元は、女性とは、その、どうなんだ?」
「したことない。どっちも好きになる人もいるけど、俺は男だけみたいだ。それは、けっこう早くに気が付いたよ」
「いつ?」
「中学生のとき」
そっけない言い方だった。少し、そっけなさすぎるほどに。
何かの勘が働いて響野は顔を上げる。
「好きな男がいたのか?」
「うん、いた」
やはりそっけなく水元は答える。
だが、しばらく黙ったあとで、相手はぽつりと付け加えた。
「同じ人を今も好きだ」
響野は目を見張る。
水元の影が動いて、こちらの顔をのぞき込んだ。
「さっきも言ったけど、気が進まなかったら無理しなくていいから」
「気が付かなかっただけだ」
相手をさえぎるように響野は言った。
「もっと一緒にいたら……せめて高校くらいまで一緒だったら」
言いたいことが膨れ上がり、かえって言葉につまる。
水元が引っ越していったあとの話をしたかった。安西とふたりで水元の家を探してうろつき回ったことや、見つけたアパートがあまりにもボロくてドアを蹴破りたくなったこと。帰りのコンビニで食べたアイスが少しもおいしくなかったこと。CDラジカセを独りで捨てにいったこと。
「何で……何も言わないんだよ……」
けれども、口から出てきたのはそんな恨み言のようなセリフだけだった。
「ごめん」と水元が詫びるのを聞いて、ますます感情が行き場を失う。
「したことない。どっちも好きになる人もいるけど、俺は男だけみたいだ。それは、けっこう早くに気が付いたよ」
「いつ?」
「中学生のとき」
そっけない言い方だった。少し、そっけなさすぎるほどに。
何かの勘が働いて響野は顔を上げる。
「好きな男がいたのか?」
「うん、いた」
やはりそっけなく水元は答える。
だが、しばらく黙ったあとで、相手はぽつりと付け加えた。
「同じ人を今も好きだ」
響野は目を見張る。
水元の影が動いて、こちらの顔をのぞき込んだ。
「さっきも言ったけど、気が進まなかったら無理しなくていいから」
「気が付かなかっただけだ」
相手をさえぎるように響野は言った。
「もっと一緒にいたら……せめて高校くらいまで一緒だったら」
言いたいことが膨れ上がり、かえって言葉につまる。
水元が引っ越していったあとの話をしたかった。安西とふたりで水元の家を探してうろつき回ったことや、見つけたアパートがあまりにもボロくてドアを蹴破りたくなったこと。帰りのコンビニで食べたアイスが少しもおいしくなかったこと。CDラジカセを独りで捨てにいったこと。
「何で……何も言わないんだよ……」
けれども、口から出てきたのはそんな恨み言のようなセリフだけだった。
「ごめん」と水元が詫びるのを聞いて、ますます感情が行き場を失う。
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