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DAY5
88
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「そういう意味じゃないぞ」
何が?とたずねる相手の声は恐ろしく低い。
「今、水元が考えてることだ。言い方が悪かったけど、そういう意味じゃない」
響野は作業台の上にマグカップを置く。
「俺はただ、気持ちが同じなら、未来のことであれこれ悩むより、一緒にいればいいと思ったんだ」
「どうして?」
「どうしてって、好きだからだよ」
「俺のどこがいいの」
静かに問われて、響野は困惑した。この質問には何と答えれば良いのだろう。相手の好きだと思う部分を挙げていけばいいのだろうか?
「声とか」
「声?」
「や……やさしいところとか」
普通に答えようと思うのに、どうしようもなく顔が火照ってきて、声がうわずる。今すぐに逃げ出したい気持ちと、踏ん張ろうとする気持ちが身体の中でせめぎ合っていた。
「それから」
何とか続けようと響野は口を開く。
それから。
他にどこが好きだろう。俺は、水元の。
真面目なところ、人の良いところ、たまに言葉がキツイところ、てきぱきしているところ、心配性なところ。
病院で水元が声をかけてきたときのことを思い出した。
暗闇の中にそこだけ光が灯っているようだったこと。家の床を移動していく足音や、食事どきの何でもない会話のこと。ときどき聞こえてくる鼻歌や口笛のこと。毎日、顔を合わせるたびに交わす挨拶のこと。
ひとつひとつ数えるうちに胸がつまり、涙までにじみそうになって困った。
何が?とたずねる相手の声は恐ろしく低い。
「今、水元が考えてることだ。言い方が悪かったけど、そういう意味じゃない」
響野は作業台の上にマグカップを置く。
「俺はただ、気持ちが同じなら、未来のことであれこれ悩むより、一緒にいればいいと思ったんだ」
「どうして?」
「どうしてって、好きだからだよ」
「俺のどこがいいの」
静かに問われて、響野は困惑した。この質問には何と答えれば良いのだろう。相手の好きだと思う部分を挙げていけばいいのだろうか?
「声とか」
「声?」
「や……やさしいところとか」
普通に答えようと思うのに、どうしようもなく顔が火照ってきて、声がうわずる。今すぐに逃げ出したい気持ちと、踏ん張ろうとする気持ちが身体の中でせめぎ合っていた。
「それから」
何とか続けようと響野は口を開く。
それから。
他にどこが好きだろう。俺は、水元の。
真面目なところ、人の良いところ、たまに言葉がキツイところ、てきぱきしているところ、心配性なところ。
病院で水元が声をかけてきたときのことを思い出した。
暗闇の中にそこだけ光が灯っているようだったこと。家の床を移動していく足音や、食事どきの何でもない会話のこと。ときどき聞こえてくる鼻歌や口笛のこと。毎日、顔を合わせるたびに交わす挨拶のこと。
ひとつひとつ数えるうちに胸がつまり、涙までにじみそうになって困った。
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