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DAY5
43
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相手の顔を見て、伯母が冗談を言っているのだと理解した。相変わらず表情や顔色は冴えなかったが、母とうりふたつの黒い目に、先ほどよりも力が戻っている気がした。
こういう場面でつい不謹慎な冗談を言ってしまうクセが自分にもある。
だから想像がつく。伯母はきっと今までも、こんなふうに死を乗り越えようとしてきたのだろう。
響野は、山崎にもらった名刺を上着のポケットにしまった。斎場のスタッフに促されて、ふたりはセレモニーホールの遺族席に歩いていった。
* * * * *
ランプの精霊のように、こちらの願いごとを何でも叶えてもらえるわけではなかったが、こと損害保険に関しては、山崎にはそのあとも大いに助けられた。
両親の〈終活ファイル〉は年金などの公的保障や生命保険の手続きについて詳しく書かれている一方で、損害保険には、ほとんどふれられていなかったからだ。
生保と損保は、同じ保険でもしくみが違う。
契約のときに取り決めた保険金が定額で支払われる生命保険に対して、事故や災害に遭ったときの損害額を実費で補償する損害保険は、誰がどんな“損害”を負うことになるか予測がつかないから、生命保険よりも定型的な引き継ぎをしにくい。
両親も、自分たちが交通事故で命を失う可能性が高いとは考えていなかったようで、ファイルにある自動車保険の記述は、ごくあっさりしたものだった。
こういう場面でつい不謹慎な冗談を言ってしまうクセが自分にもある。
だから想像がつく。伯母はきっと今までも、こんなふうに死を乗り越えようとしてきたのだろう。
響野は、山崎にもらった名刺を上着のポケットにしまった。斎場のスタッフに促されて、ふたりはセレモニーホールの遺族席に歩いていった。
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ランプの精霊のように、こちらの願いごとを何でも叶えてもらえるわけではなかったが、こと損害保険に関しては、山崎にはそのあとも大いに助けられた。
両親の〈終活ファイル〉は年金などの公的保障や生命保険の手続きについて詳しく書かれている一方で、損害保険には、ほとんどふれられていなかったからだ。
生保と損保は、同じ保険でもしくみが違う。
契約のときに取り決めた保険金が定額で支払われる生命保険に対して、事故や災害に遭ったときの損害額を実費で補償する損害保険は、誰がどんな“損害”を負うことになるか予測がつかないから、生命保険よりも定型的な引き継ぎをしにくい。
両親も、自分たちが交通事故で命を失う可能性が高いとは考えていなかったようで、ファイルにある自動車保険の記述は、ごくあっさりしたものだった。
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