ポケットのなかの空

INTERVAL

10

　響野は、ぽかんと水元をながめ、それからあわてて視線を逸らす。自分が見てはいけないものを見てしまったような気がしたのだ。
　その日、水元はいつになく早く帰っていった。あまり話す機会もないままに春休みを迎え、三年の新学期になるまで、相手とは顔を合わせない日が続いた。
　……安西の目には自分たちが仲良く見えていたようだが、はたして本当にそうだったのだろうか。
　俺は水元のことを何も知らない、と響野は思う。


　水元が引っ越していったあと、響野は志望校を元に戻した。横山の第一志望も一緒のところで、ふたりとも無事に合格した。
　安西はといえば、三年生の後半から驚異的な学力アップをとげ、担任教師の勧めで、やはり響野たちと同じ高校に進学した。和田だけは生物部の活動が充実している県外の学校を選んだ。
　水元の引っ越し先はわからないままだった。クラス担任にも学年主任にも問い合わせたが、個人情報保護を盾に頑がんとして教えてもらえなかったのだ。
　安西の言った“家庭の事情”という言葉が、奇妙な現実感をともなって頭をチラついた。
　卒業式が差し迫った頃、四人で空き教室を片付けた。
　安西が持ち込んだＣＤや音楽雑誌、和田が動物を入れるのに使っていたケージ、横山が作ったからくり装置などがなくなると、彼らが二年間をすごした空き教室は、魔法が解けたように学校の一部に戻った。