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DAY3
34
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熱は生き物が生きている証だ。それなら水元聖は、まぼろしでも幽霊でもなく、確かに生きてここに存在しているのだろう。
「響野、ちょっと」
ふいに水元が声をあげた。焦ったように響野の手首をつかんで自分の顔から離す。
水元の手も彼の顔と同じくらいに体温が高かった。つかまれている部分に熱を感じながら響野は目の前の影を凝視する。こんなに近くにいるのに、水墨画のようなにじんだ色のかたまりにしか見えないことがもどかしかった。
「ごめん……くすぐったかったから……」
動揺した水元の声が聞こえてきて、突然われに返る。
今、自分は何を考えていただろう?
水元が離すと、響野の手は支えを失って身体の横に落ちた。
「驚かせたか? ごめんな」
こちらがぼんやりしていることを気にしたのか、もう一度、水元があやまってくる。困惑を押し殺した不自然なほどやさしい声だった。急に自分が百歳くらいの老人になって介護施設に入所している気分になった。
スプリングのきしむ音がして水元がベッドを立つ。
「オーブンを見てくる。飯ができたら呼ぶから」
「悪かった」
とっさにあやまると「何が?」と返された。だが、響野が答えるよりも先に水元は言葉を続ける。
「伯母さんに連絡してみろよ。響野が色々できることは知ってるけど、俺は明日も出かけるし」
わかったと響野はうなずいた。うなずく以外に答えようがあるはずもない。
「響野、ちょっと」
ふいに水元が声をあげた。焦ったように響野の手首をつかんで自分の顔から離す。
水元の手も彼の顔と同じくらいに体温が高かった。つかまれている部分に熱を感じながら響野は目の前の影を凝視する。こんなに近くにいるのに、水墨画のようなにじんだ色のかたまりにしか見えないことがもどかしかった。
「ごめん……くすぐったかったから……」
動揺した水元の声が聞こえてきて、突然われに返る。
今、自分は何を考えていただろう?
水元が離すと、響野の手は支えを失って身体の横に落ちた。
「驚かせたか? ごめんな」
こちらがぼんやりしていることを気にしたのか、もう一度、水元があやまってくる。困惑を押し殺した不自然なほどやさしい声だった。急に自分が百歳くらいの老人になって介護施設に入所している気分になった。
スプリングのきしむ音がして水元がベッドを立つ。
「オーブンを見てくる。飯ができたら呼ぶから」
「悪かった」
とっさにあやまると「何が?」と返された。だが、響野が答えるよりも先に水元は言葉を続ける。
「伯母さんに連絡してみろよ。響野が色々できることは知ってるけど、俺は明日も出かけるし」
わかったと響野はうなずいた。うなずく以外に答えようがあるはずもない。
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