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DAY2
26
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響野はその声が聞こえてくる方向を見た。目が映像を捉えられなくても、頭の中の記憶が今の自分が本来見ているはずのものを補っていた。
L字型のソファの向かいにはテーブルをはさんで液晶テレビやオーディオがある。寝ながらテレビを見たいという父のわがままにより、ソファもテレビもリフォームの際に新しくなっていた。
水元がいるのは、たぶん窓に面したソファの一角だろう。外から太陽が射しこんでくるので、今日の天気は晴れだとわかる。朝起きたときから感じている光だ。
「正直を言えば、見えないのは怖いよ」
組み合わせた自分の両手を意識しながら響野は認めた。結局、そういうことだった。彼の手は彼自身よりも正直だったのだ。見えないまま、ひとりでいるのは怖かった。
昨日の午後、水元が駅前に行くと言ったとき、このまま戻ってこないかもしれないなと考えた。元より友人に戻る義理はない。たとえ帰るつもりがあったとしても、本当に帰ってくるとは限らない。一度別れた人間と再び会える確率は、今まで自分がそう信じてきたよりも低いのだ。
手がふるえだしたのは、おそらくそのタイミングだと響野は思ったが、そんなことはとても本人には明かせなかった。
「入院しないのは自分で決めたことだ。それなのに、ひとりが心細いなんて矛盾してる。だから今日一日、身の回りを工夫して、大丈夫だと言い聞かせてた……怖さを克服したかったんだ」
それで、克服はできたのか?ということは、あまりたずねてもらいたくなかった。まだ格好良い返事はできそうにない。
しかし少なくとも今、響野の手はふるえていなかった。ビリー・ジョーと友人のおかげだ。
L字型のソファの向かいにはテーブルをはさんで液晶テレビやオーディオがある。寝ながらテレビを見たいという父のわがままにより、ソファもテレビもリフォームの際に新しくなっていた。
水元がいるのは、たぶん窓に面したソファの一角だろう。外から太陽が射しこんでくるので、今日の天気は晴れだとわかる。朝起きたときから感じている光だ。
「正直を言えば、見えないのは怖いよ」
組み合わせた自分の両手を意識しながら響野は認めた。結局、そういうことだった。彼の手は彼自身よりも正直だったのだ。見えないまま、ひとりでいるのは怖かった。
昨日の午後、水元が駅前に行くと言ったとき、このまま戻ってこないかもしれないなと考えた。元より友人に戻る義理はない。たとえ帰るつもりがあったとしても、本当に帰ってくるとは限らない。一度別れた人間と再び会える確率は、今まで自分がそう信じてきたよりも低いのだ。
手がふるえだしたのは、おそらくそのタイミングだと響野は思ったが、そんなことはとても本人には明かせなかった。
「入院しないのは自分で決めたことだ。それなのに、ひとりが心細いなんて矛盾してる。だから今日一日、身の回りを工夫して、大丈夫だと言い聞かせてた……怖さを克服したかったんだ」
それで、克服はできたのか?ということは、あまりたずねてもらいたくなかった。まだ格好良い返事はできそうにない。
しかし少なくとも今、響野の手はふるえていなかった。ビリー・ジョーと友人のおかげだ。
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