【本編完結】ポケットのなかの空

ＤＡＹ１

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「二週間前。旅行先で事故に遭ったんだ」
　交通事故だった。三人を乗せた車は高速道路で対向のトラックと正面衝突をした。
「旅行は、妹の内定祝いだった。俺も行く予定でいたけど、前日に仕事がトラブってキャンセルしたんだ」
　トラブルの原因は、よくあるハードウェアの動作不具合だ。何工程にもおよぶテストを実施していても、こういう事態はまま起きる。そして不具合が発生したとき、真っ先に検証を求められるのは、開発最終工程にあるソフトウェアチームだ。プロジェクトの一員である響野に拒否権はなかった。
　会社に泊まりこみ、デバッグの目処めどがたちはじめた頃、警察からの電話で事故のことを知らされた。
「うちの両親は……なんていうか、用意周到な人たちだった。“終活”っていうのか？　遺言やら墓やら遺産相続のことやらまでひと通り手配してあってさ。俺も妹もいざというときはこうしろって説明を受けてた。でも、未希みきのことは……さすがに想定外だったな」
　両親は自分たちの葬儀について葬儀会社と綿密に打ち合わせをしていた。訃報ふほうを伝える相手のリストも準備してあり、響野と伯母はそれに従って行動をすればよかった。
　大変だったのは、妹の関係者への連絡だ。
　両親は葬儀に呼ぶ相手を自分たちの基準によってある程度しぼり込んでいたが、未希の周辺についてその判断を下すことは響野にも伯母にも難しかった。