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DAY AFTER
10
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柳沼智美は水元の祝いの言葉に応じる。頬が紅潮して、大きく見開いた瞳が輝いていた。彼女のそんな表情は初めて見る。今まではうつむいているか、感情を押し殺したような無表情しか知らなかった。
ひとりの人間の中にも色々な顔があるんだな、と響野は思う。言葉にしてみれば当たり前のことだったけれども。
水元と佳子に遅れるようにして越智がやってきた。響野の近くまできて立ち止まった相手は、少しためらった様子でこちらを見ると、「先ほどは失礼しました」と頭を下げる。
「越智一志と言います。柳沼智美の婚約者です」
言葉の中に、このあたりの地域のものとは違う、かすかな訛りがあった。顔を上げて響野を見た目つきは相変わらず鋭いが、先ほどのようなぴりぴりした威圧感は消えている。
「響野伸也です」
自分も名乗ると「はい」と越智はうなずく。
ふと思いついて、響野は彼のほうへ右手を差し出した。
越智は鋭い視線を落としたかと思うと、それほど迷うことなく響野の手を握り返してくる。意外にもしっかりとした力強い握り方だった。
風が吹いて、広葉樹の葉を芝生と石畳の道の上に散らした。シイの木の枝が揺れる。
一年前よりも育った三本の木の横で、自分たちはきちんと前に進めているだろうか、と響野は考えた。
ひとりの人間の中にも色々な顔があるんだな、と響野は思う。言葉にしてみれば当たり前のことだったけれども。
水元と佳子に遅れるようにして越智がやってきた。響野の近くまできて立ち止まった相手は、少しためらった様子でこちらを見ると、「先ほどは失礼しました」と頭を下げる。
「越智一志と言います。柳沼智美の婚約者です」
言葉の中に、このあたりの地域のものとは違う、かすかな訛りがあった。顔を上げて響野を見た目つきは相変わらず鋭いが、先ほどのようなぴりぴりした威圧感は消えている。
「響野伸也です」
自分も名乗ると「はい」と越智はうなずく。
ふと思いついて、響野は彼のほうへ右手を差し出した。
越智は鋭い視線を落としたかと思うと、それほど迷うことなく響野の手を握り返してくる。意外にもしっかりとした力強い握り方だった。
風が吹いて、広葉樹の葉を芝生と石畳の道の上に散らした。シイの木の枝が揺れる。
一年前よりも育った三本の木の横で、自分たちはきちんと前に進めているだろうか、と響野は考えた。
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