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DAY4
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食器を下げた響野がキッチンから挨拶をすると、佳子は甥が普通に立っていることが意外だったらしい。「動けるの?」と声がした。電話口の落ち着いた話し方ではなく、思わず口からもれた、といった様子の衒いのない声だった。
それは一瞬、ぎくりとするほど母のものに似ていた。
響野はピントの合っていないカメラのファンダーごしにものを見ているような今の目の状態を説明する。
至近距離で見る伯母は、いつも通りの黒っぽい服を着ていた。自分の目線の高さから見下ろすと、髪の毛が上着の色に溶け込んで、頭のてっぺんから上半身までひとかたまりのように見える。
佳子はダイニングの椅子に荷物を置くと、響野のいるキッチンまでやってきた。ガサガサと音をたてる花束を手に持っている。
花の切り戻し作業をするつもりだと見当がついたので、響野は流しの作業スペースを伯母に譲って自分はダイニングに移動した。
切り花はできるだけ早く生けてあげたほうが長持ちする。
花を好きだった母が口癖のように言っていたことだ。買ったものでも、庭で摘んだものでも、家に花を持ち帰ると彼女は真っ先に洗い桶に水を張り、はさみと花器と剣山を用意した。
ずっと母特有の行動なのかと思っていたが、どうやら姉である佳子も、花の扱いには神経質なようだ。
響野はダイニングのテーブルの天板に手を這わせて縁を探ると、下に収まっているダイニングチェアを引き出す。一日に何度もくり返す動作なので、自然と身体が手順を覚えた。
背後では、佳子が動きを止めて、そんな甥の一挙手一投足をうかがっている気配があった。
それは一瞬、ぎくりとするほど母のものに似ていた。
響野はピントの合っていないカメラのファンダーごしにものを見ているような今の目の状態を説明する。
至近距離で見る伯母は、いつも通りの黒っぽい服を着ていた。自分の目線の高さから見下ろすと、髪の毛が上着の色に溶け込んで、頭のてっぺんから上半身までひとかたまりのように見える。
佳子はダイニングの椅子に荷物を置くと、響野のいるキッチンまでやってきた。ガサガサと音をたてる花束を手に持っている。
花の切り戻し作業をするつもりだと見当がついたので、響野は流しの作業スペースを伯母に譲って自分はダイニングに移動した。
切り花はできるだけ早く生けてあげたほうが長持ちする。
花を好きだった母が口癖のように言っていたことだ。買ったものでも、庭で摘んだものでも、家に花を持ち帰ると彼女は真っ先に洗い桶に水を張り、はさみと花器と剣山を用意した。
ずっと母特有の行動なのかと思っていたが、どうやら姉である佳子も、花の扱いには神経質なようだ。
響野はダイニングのテーブルの天板に手を這わせて縁を探ると、下に収まっているダイニングチェアを引き出す。一日に何度もくり返す動作なので、自然と身体が手順を覚えた。
背後では、佳子が動きを止めて、そんな甥の一挙手一投足をうかがっている気配があった。
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