ポケットのなかの空

ＤＡＹ４

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　案の定、水元のメッセージは、面接と施設見学に行ってくる、という内容だった。他にも、おおよその帰宅時間や、テーブルの上に朝食を用意しておいたこと、昨夜は具合が悪そうだったので今日は家事もリハビリもしないで休んでいたほうが良い、といった引き継ぎやアドバイスがあとに続いていた。
　受信は今朝の九時半だ。現在時刻を確認してみると、十一時を少し回ったところだった。
　響野はどちらかと言えば宵よいっぱりだが、今は睡眠薬を服用しているから、日付が変わる前には眠ってしまう。それでもこの時間まで目が覚めないということは、薬の作用がまだ残っているのかもしれなかった。
　そういえば、病院で処方された薬を飲むとき、水元があまり歓迎ムードではなかったことを思い出す。薬局でもらった説明書を響野にもわかるように読み上げながら、『眠気が残る場合や、めまいやふらつきが起きる場合がある』という注意書きのくだりまでくると、「そういうことがあったら教えて」と言った。
　相手の口調がやけに警戒していたので、薬が嫌いなのか？と不思議に思ったが、聞いてみると、好き嫌いというよりも、もっと実務的な理由だった。つまり、薬の副作用によって転倒のリスクが高まる可能性があるのだ。
　こんなふうに水元の言動のところどころに介護士らしい職業意識が顔をのぞかせるたびに、響野は何とも言えず複雑な気分になる。自分が〈被介助者〉として配慮されていることを感じるせいだ。
　もちろん、相手のサポートには感謝しているが、もしも水元の見せるやさしさが、彼自身の個人的な感情ではなく、職業人として水元が持っている使命感のようなものからきているのだとすれば寂しかった。