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陵辱と疑念
しおりを挟む『ですが貴女には・・・大学時代に婚約までした人がいらっしゃったとか。それがどうして廣瀬部長と?』
"彼"を仄めかす言葉に私は固まる。
『ああご免なさい。・・・そうよね、あんな事されたら誰だって嫌になるわよね』
彼女は"彼"の事も、何があったかも知っている風だった。
『ええ、分かるわ・・・女性としてはそんな時傍にいた男性に優しくされたら、思わず気持ちも傾くわよね』
傍にいた男性? ――違う、彼はそんな対象じゃなかった。恋愛感情なんて抱いてなかった。それなのに――・・・
***
「ひなたっ! A社から採用通知が来たんだ! 今日は祝い飯だっ!」
「ほんと? 凄いよ英くん!おめでとうっ!」
にかっと嬉しそうに笑う英樹くんの周りに、同じ学部の仲間が集まる。
「すげーな英樹! ホントに第一志望受かったのかよ!」
「やるな英樹~!おめでとう!」
英樹くんは昔から『新しいモノを開発して世に広めるのが夢』と言っていて、大手メーカー開発部への就職を希望していた。
そして大学からほんの一握りの優良生徒に与えられる推薦枠を得たのだ。
彼の努力を見てきたひなたにとっても、嬉しい出来事だった。
「・・・これで、ひなたの両親にも胸張って報告出来る」
「うん・・・嬉しい」
サークルで知り合った英樹くんはとても明るく活発で、笑うと見える八重歯が可愛い爽やかなイケメンだ。
彼が居るだけで太陽のように周りの人まで元気にさせる。
大学内でも、サークル内でも、いつも彼の周りには沢山の人が居た。
そんな彼に淡い恋心を抱いていた私は、クリスマスに彼から告白され付き合うこととなった。
付き合って3年目となったある日、ひなたは彼に小さな指輪でプロポーズされた。
『ちゃんと就職先が決まったら、ひなたのご両親に挨拶に行く』そう彼は言った。
二人の将来をきちんと考えてくれていた事が、ひなたは何より嬉しかった。
そうして顔合わせも済み、入籍と結婚式は彼の仕事が落ち着いてからと言う事で話はまとまった。
「ごめんな、ひなた。本当は直ぐにでも一緒に暮らしたかったのに」
「ううん。私も仕事してお金貯めるね」
彼は卒業と同時に狭いアパートで一人暮らしを始めた。
実家から職場に通っていた私は、時々彼の家に遊びに行っては料理や片付けをしていた。
生産開発の現場はなかなかの激務らしく、深夜遅くに疲れて帰ってくる彼はそれでもやり甲斐を感じているようだった。
毎日頑張っている彼を応援したくて、デートにも遊びに行けない日が続いてもひなたは何も言わずに彼を支えた。
ある日ひなたが食事を準備して彼の帰宅を待っていると、英樹は酒の匂いを纏いながら帰ってきた。
「英くん、大丈夫?飲み過ぎなんじゃない?」
お酒に強い彼が、ここまでぐでんぐでんになるのも珍しい。
「・・・るせーな!俺の勝手だろ!」
心配するひなたの手を彼は乱暴に振り払う。
驚き固まるひなたに、彼は少し冷静になったのか慌てて取り繕う。
「・・・悪い。ちょっと仕事で上手くいかなくて・・・寝るわ、俺」
「う、うん。それじゃあ私も帰るね」
「ああ、ごめんな・・・」
ひなたは料理を冷蔵庫に仕舞い、布団に縮まる彼を心配そうに眺めてから玄関の扉を閉めた。
翌週、ひなたが仕事帰りに彼の家に行くと、珍しく早く帰った彼が居た。
「ひなた、この前はごめんな。ひなたに当たるなんて、俺、どうかしてた・・・いつも上手いご飯作ってくれて、ホント感謝してる」
そう言ってぎゅっと抱きしめられる。
良かった、この前はやっぱり疲れてたんだ・・・ひなたはいつもの優しい彼にほっとした。
「これ・・・初任給貯めて買ったんだ。良かったら、仕事にも付けてって」
ポケットから取り出した小さな箱は、誰もが知る有名なジュエリーブランドのもの。
彼は箱を開けると、中に納められた小ぶりでシンプルなネックレスをひなたに見せる。
彼の努力が沢山詰まっているそのネックレスに、ひなたは目に涙を溜めて喜んだ。
「ありがとう。大事にする」
久しぶりに甘い時間を過ごしたひなたは、何があっても彼を支えようと心を新たに決めていた。
就職して半年ほど過ぎた時、終業時刻間近となったひなたの会社で女性社員達が騒ぎ始める。
「ねえ、会社の近くにベンツが止まっているんだって!しかも超イケメンが誰か待っているっぽいんだよね~」
「マジで?! 誰だろう? 見に行っちゃおうかなぁ!?」
「浅田さんも行く?」
「え、私はいいや・・・」
ひなたも声を掛けられたが、今日は英樹の食事を作りに行く日でひなたは早くスーパーに行きたかった。
「タイムセール間に合うかな・・・」
会社を出て早足で歩くひなたの横に、噂のベンツが止まる。
ぎょっとするひなたに、車の窓を開けて中から懐かしい声が掛けられる。
「ひなたちゃん。久しぶり」
「・・・え? 陽斗くん?!」
「そうだよ。 今さっき日本に戻ってきたんだ・・・一番にひなたちゃんの顔が見たくて、来ちゃった」
嬉しそうに笑う彼は、数年前に仕事で海外に行ったきり会っていない幼馴染みだった。
小中学校と同じだった廣瀬陽斗は、小さい時から可愛らしい顔をしてたため、ひなたは勝手に弟のように思ってた。
高校で彼は進学校に進んだため別れたが、季節ごとに電話や手紙でやり取りをしては時折会っていた。
彼は大学には行かず、親戚の会社を手伝うとかで早くから働き始めていて、そして数年前には海外に行くとひなたにも知らせが来たのだ。
懐かしい級友に会えてひなたも嬉しくなる。
「なんか、すっかり大人になっちゃったね。 海外での生活は大変だった?」
大人びた様子の彼に、なんとなく寂しさを感じながらひなたは聞く。
廣瀬はひなたを車に乗せると、面白そうに笑いながら話す。
「そうだね・・・日本とは価値観が違うから、最初は戸惑ったけど慣れると中々楽しいよ。 ひなたちゃんも元気そうだね。 そうだ、お土産買ってきたんだ。今日は持ってきてないから、今度都合の良い日に久しぶりに海に行かない? 赴任先は内陸だったから、日本の海が恋しくてさ」
もちろん行く、と答えかけてひなたは口ごもる。
「嬉しい、ありがとう。・・・でもごめんね。私、婚約してて、その・・・」
「婚約? ああ、大学時代の彼?」
「うん・・・」
「そっか、おめでとう。 じゃあ、もうデートには誘えないなぁ」
いつも通りに笑って冗談を言う彼。
昔馴染みの友達に婚約の事を話すのは照れたけど、祝福の言葉を貰えてひなたは嬉しくなった。
「それじゃあ、送ってくれてありがとう」
「うん。また連絡するね」
廣瀬にスーパーまで乗せてもらい、その日は簡単な挨拶を交わして別れた。
それからというもの、廣瀬は時たまひなたの前に現れて、車中で少し会話をしては別れるという事を繰り返した。
会社から自宅や英樹のアパート近くまで乗せてもらい、その間に少し話す程度で、二人きりでどこかで会ったり食事をしたりなんて事はしていない。
婚約者の事を気遣ってくれているのだろうと、ひなたも特に気にしていなかった。
「ひなた・・・浮気、してるのか?」
いつものように食材を手に英樹の家に行けば、不安そうな表情の彼が居た。
ひなたは何の事か分からず、一瞬反応が遅れる。
その間を肯定と受け取ったのか、英樹の視線が険しさを増す。
「アイツ、車でよく送って貰っている男・・・誰だ?」
「! ああ、陽斗くんか。彼は幼馴染みで――」
「ハルト? そいつが新しい男なのかッ?」
「ちが――」
「俺が必死に働いてる時に、お前はそいつと会ってるのか!?」
英樹が何故、廣瀬に送って貰っていることを知っているんだろう?
その時間帯彼はまだ仕事しているはずなのに・・・
そんな疑問が僅かに浮かぶが、目の前の彼の怒りを収めようとひなたは必死になる。
「英くん、聞いて――きゃっ!!」
「このっ、裏切り者ッ!!」
英樹に腕を引っ張られ、買い物袋が音を立てて床に落ちる。
引きずるように室内に放り込まれ、暴力的な彼の言動にひなたは怯えた。
「許せねぇ・・・信じてたのに。信じてたのに――!」
目を吊り上げ、ひなたに跨がってくる。
こんなに興奮した様子の彼は初めて見た。
英樹は嫌がるひなたを押さえつけ、服を破るように脱がす。
「アイツとも、もうやったんじゃないのか?」
「やってない!やってないから、英くんッ!」
首筋に荒々しく噛み付かれ、ひなたは悲鳴を上げる。
皮膚がブチリと嫌な音を立てた。滲む血をそのままに彼はあちこちに噛み跡を残す。
「痛いっ!英くん、辞めてっ!!」
「・・・アイツは良いのに、俺はダメなのか?」
彼の中ではすでにひなたと廣瀬が出来ているように思えているらしい。
いくらひなたが違うと叫んでも、決して耳を傾けない。
両手を強く床に押し付けたまま、胸や二の腕にも噛み付く。
ひなたは恐怖のあまり涙が流れてくる。
「お願い、止めて、英くんっ・・・んッ!」
「・・・無理矢理押し倒されているのに、乳首立たせて淫乱だな」
舌でねっとりと乳首を舐め回され、嫌でも敏感に反応してしまう。
――が、次の瞬間、取れるのではないかという強さで強く噛まれ、ひなたは声にならない悲鳴を上げた。
「――ッ!!」
なんで・・・どうして、こんな事するの、英くん・・・
普段の優しくて明るい彼はどこに行ってしまったの・・・
別人のように豹変する彼に、ひなたは戸惑い涙を流し続けた。
両手を頭上でまとめ上げられ、彼は性急にズボンを脱ぎ始める。
彼はいつの間にか荒い息を吐き出し、目には明らかに情欲の色が宿っている。
濡れてもいないアソコに彼の固い肉棒が添えられる。
犯されているかのような現状に、ひなたは更に怖くなり身をよじる。
「――やっ!!イヤだ、こんなの嫌、止めて英くんッ!」
「黙れッ!淫婦がッ!」
パシン!
頬を叩かれ、一瞬頭が真っ白になる。
受け入れる準備の出来ていない秘部に、無理矢理肉棒をねじ入れられる。
内壁が無理に引っ張られ、引き裂かれるような痛みがひなたを襲う。
いくら声を上げても、英樹は腰を進める事を止めない。
もう、何が何だか分かんないよ――
ひどい言葉で罵られ、馬乗りになって無理矢理犯され、暴力まで振るわれる――ひなたは、これは何かの悪い夢に違いない、そう現実逃避する事で心の痛みに耐えた。
涙を流すひなたをがっしり押さえつけ、彼は狂ったようにただただ腰を打ち付ける。
ひたすら男の快楽のみを求めた乱暴な動きに、まるで自分は人形のようだとひなたは思った。
「ひなた、ひなた――愛してる、好きだ、ひなた――ッ!」
英樹はうわごとのように繰り返しながら、自分の欲をひなたの中に吐き出す。
良かった・・・やっと終わった――
やっと痛みから解放される、そう思ったひなたに、英樹はニヤリと歪な笑顔で笑いかける。
「――まだだよ、ひなた。もっと俺の愛を受け取って――」
衰える様子のない彼の熱に、ひなたは青くなる。
夜が明け朝日が差し込むまで――英樹が疲れ果てて眠るまで、ひなたは彼に犯され続けた。
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