お隣さん家の圭くんは

角井まる子

文字の大きさ
上 下
7 / 14

言われなくても分かってます

しおりを挟む

麻実が気が付いたのは、5限目が始まってすぐのようだった。
問題の『昼休み』を気絶でスルー出来たのは幸いだった。
昼ごはんを食べ逃した悔しさを上回る歓びだ。

夜にでも圭に電話で問い詰めて、今後二度と騒動を起こさないよう厳重注意しよう。
そして今日はこのまま放課後まで教室に顔出さないで、今週いっぱいは体調不良で学校を休もう。
そうすれば、わたしの存在も今日の出来事も、すぐにみんな忘れてくれるはず・・・!

自分の計画に安心したわたしは、そのまま保健室で二度寝に突入した。




再び目が醒めた時、すでに夕方近くになっていた。
グランドからは、威勢のいい運動部の掛け声が聞こえてくる。

まずい。完璧に寝過ごした・・・!

目が醒めたきっかけは、盛大に鳴り響いた自分のお腹の音だった。
お腹空いた・・・早く教室行ってカバン取ってきて、さっさと帰ろう。
今ならもう、教室に人もいないだろう。
このまま誰にも会わずに帰れるといいな。


・・・なんて、世の中甘くないですよね、はい。


教室の自分の席の周りに、特進クラスの制服を着た女子生徒が数人。
誰を待っているのかは明らかである。
カバンを持って帰りたかったけど、これは諦めるしかあるまい。

麻実は気配を消して、そーっとそのまま教室を後に――

「広瀬さん、お身体の調子はいかが?倒れたと聞いて、心配してましたのよ」

一番会いたくなかった人物が、にっこりと上品に微笑む。

「ご、ごきげんよう宮森さん。おかげさまですっかり」

な、なにがお陰様じゃー!!すっかりなんて言ったら明日からの仮病が出来なくなるでしょー!

「そう。よかったわ」

笑みをそのままに、ゆったりとした動作でこちらに寄ってくる。

「ところで、圭さまのことですけど」

き、きたぁーー!!
見るからにお嬢様と分かる宮森華絵。この青葉学園のみならず、すべての圭さまファンクラブを取り仕切っている『総会長』様だ。圭とは幼稚園からの幼馴染。つまり私とも、小学校からの幼馴染。
わずか3歳で圭に一目ぼれして以来、齢17にして人生のほとんどを圭に捧げてると言っても過言ではない熱狂的な圭の信者である。
そんな神様仏様圭さまをいじめまくっていたわたしは、彼女からしたら殺したいくらいの天敵に違いない。
実際に、小学校の頃のわたしの村八分は、彼女によって扇動されていた。
一度、彼女と仲間たちに取り囲まれて手を出されそうになったことがあったが、すぐに駆け付けた圭にきつく怒られて以来、直接的な接触はほぼなかった。

「・・・なんでしょう」

「分かってはいるでしょうけど、圭さまとあなたでは、もう住む世界が違うの。昔のように、間違っても変な勘違いを起こさないで頂戴ね?」

分かっている。そんなこと、言われなくても自分が一番分かってる。

「ちょっとした気まぐれで声を掛けられたからって、図々しくも圭さまの横で昔のようにふんぞり返られたら、もう目も当てられませんもの。これはあなたの為の忠告よ。これ以上、惨めな思いしたくないでしょう?」

くすくすくす。馬鹿にしたような笑いが、彼女の後ろにいる女子達から漏れる。
視線を下にしたまま黙り込んだわたしに気が済んだのか、宮森さんはふんっと鼻を鳴らすと「もう済んだわ。行くわよ」と女子たちに声を掛ける。

「・・・そうそう。もし、あなたがまた圭さまとお話ししたいって思うのなら、ファンクラブに入りなさい。ファンクラブは同士ですもの。わたくしもあなたを、仲間として認めてあげてもよろしくてよ?」

そう言い残して、彼女たちは教室を去っていった。

「・・・・・」

誰も居なくなった教室の入り口で固まっていたわたしは、ぐっと拳を握り込む。

・・・分かってるよ。自分が圭にとてもひどいことしてたってことは。
側にいたいなんて考えてもいない。
こっそり静かに生きてきたつもりだ。圭にも、誰にも迷惑かけないように、息を潜めて。
それなのに。
それなのに―――!!

「圭め・・・許さんぞ・・・!!」

アイツが昼休みに騒動起こすから!!
ぜんっぶアイツのせいだ――――!!!!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編

タニマリ
恋愛
野獣のような男と付き合い始めてから早5年。そんな彼からプロポーズをされ同棲生活を始めた。 私の仕事が忙しくて結婚式と入籍は保留になっていたのだが…… 予定にはなかった大問題が起こってしまった。 本作品はシリーズの第二弾の作品ですが、この作品だけでもお読み頂けます。 15分あれば読めると思います。 この作品の続編あります♪ 『ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編』

処理中です...