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下宿先にて
しおりを挟む「なー、お前、そろそろ戻らなくていいわけ?」
「うーん。そろそろ戻った方が良いかな~」
「もう納品終わってんだろう?裕貴も心配してるんだし、一回帰ったら?」
「まぁね~。じゃあ、今日帰ろうかな」
「え!?それはタンマ!!今日は帰るな!まだ帰るな!」
「なんだし。どっちだよ」
事務所を出て10日。
私は、幼馴染みである夫婦の家に居候させて貰っていた。
「いやぁ~、このゲームが完了するまで居てくれたら助かるな~なんて?」
「へいへい。じゃあこれが終わったら帰ることにするよ」
「よっしゃ!サンキュー!!由佳が居てくれた方が早く終わるし、マジ助かるわ!」
由佳は幼馴染みの高木と二人で、テレビゲームをしていた。
しかし遊びでは無い。
ゲームのバグを確認する、いわゆるテストってやつだ。
同じ場面で何通りもの操作を繰り返し、変な動きが無いかチェックする。
結構根気のいる作業である。
居候させて貰う代わりに、由佳は高木のテスト仕事を手伝っていた。
「由佳~、今日も裕貴君から差し入れ貰ったよ~。今日はフルーツだったみたい」
「おっ!!メロンじゃん!ウマそー」
「大輔君、これ一応由佳への差し入れだからね~」
「愛理ちゃん、大丈夫だよ。裕貴も皆様へって事だろうと思うし」
お盆に小さくカットしたメロンを乗せて、同じく幼馴染みで高木の妻である愛理ちゃんが入ってくる。
二人とも、裕貴と同じく小学生の頃から一緒に遊んでいた友達だ。
高木 大輔と、原田 愛理ちゃん。
高木が婿養子で二人は結婚しているから、本当は原田 大輔なんだけど、昔からの癖で高木って呼んでいる。
今更、大輔なんて呼び捨ては気恥ずかしいからね。
愛理ちゃんは、お人形さんみたいに可愛い女の子。
ほわ~んとしてるのに、結構鋭い事をバンバン言う怒らせると怖い子。
高木は、良くも悪くも突き抜けた馬鹿。
いや、愛すべき馬鹿と言うべきか。
小学生の頃から、一番良く遊んだ男友達だ。
この二人がまさか結婚するなんて、身内のグループでも衝撃だった。
愛理ちゃんの実家は都内でも大きい病院を経営していて、正統派のお嬢様。
一方の高木は、上流階級とは無縁のガキ大将みたいな奴だ。
中学、高校は愛理ちゃんはお嬢様学校に通ってたし、高木は私と同じ公立中学に都立高校。
仲良しグループで集まる事はあっても二人で遊んでいる所なんて見たこと無いし、まさか愛理ちゃんのタイプが高木だったなんて、今でも信じられないくらいだ。
高校を卒業してからは愛理ちゃんが高木に猛アタック。
高木の専門学校を卒業と同時に結婚したのだ。
お嬢様な愛理ちゃんだから、もちろんご両親は初め何処の馬の骨か分からない高木に猛反対していたらしいんだけど、何があったのかいつの間にか仲良くなっていて。
最終的には愛理ちゃんと愛理ちゃんのご両親から猛烈に結婚を推進されていた。
誰とでも直ぐに仲良くなれる所が、高木の一番の魅力かもしれない。
そして婿入りした高木は、愛理ちゃんの実家の敷地内に新しく立てた家で二人で暮らしている。
と言っても、食事なんかは母屋で家族揃って食べている。
大変仲良しな家庭で羨ましい限りだ。
専門を卒業してゲーム会社に入社した高木だが、配属先が開発部門のためほとんど家に帰れなかったらしい。
これじゃ夫婦の時間が取れないって事で、自宅で出来るテスト業務に異動したのだ。
愛理ちゃんは専業主婦で、気が向いた時には高木のお手伝いもしているようだ。
そんな二人は、「しばらく置いてくれないかな~」と突然お宅訪問した私を快く迎えてくれた。
ゲストルームを一部屋貸してくれて、美味しいご飯も食べさせてくれている。
持つべき者は、やはり友だな。
手がけていた仕事を納品するまで、一人で集中したくて事務所を出てきたのだけど。
気の置けない友達と過ごす毎日があまりにも楽しすぎて、ダラダラと気が付けば既に10日目。
とっくに仕事は終わっているのに、居心地が良すぎて由佳は根を張っていた。
「裕貴君も律儀だよね~。毎日毎日、何かしら差し入れしてくれてるよ~。うちの厨房の人間も、裕貴君が持って来てくれる食材を当てにし始めてるし」
くすくすと可愛く笑う愛理ちゃん。
そうなのだ。
私がここでお世話になっているのを知っている裕貴は、毎日差し入れと称して食材を持ってきてくれている。
高級ビーフに、築地市場で水揚げされた鮮魚、入手困難な輸入品の調味料やら季節の果物やらと様々だ。
その確かな品質と、裕貴の絶妙なチョイスが料理人の心を鷲づかみにしているらしく、今では料理長が直々に食材を受け取っている。
この前は食事の時に、「いつも素晴らしい食材を有り難うございます。私どもも腕によりをかけ料理致しますので、どうか心ゆくまで滞在して下さい」と挨拶された。
裕貴のことだ。
私の宿代やお礼として、金銭を受け取らない二人の負担にならないよう、みんなで食べられる食材を差し入れしてくれているんだと思う。
結果的に凄く喜んで貰えているし、私も美味しいご飯が食べれて快適に過ごしている。
いつもながら、素晴らしい気遣いだ。
グッジョブ!裕貴!
「アイツは昔から、真面目な奴だからなぁ~。あ、メロンうめぇ!」
「裕貴君、年を重ねる程にイイ男度が増してるよね~。あの髪型、由佳の好みでしょう~?」
「うんそう。長髪格好良くない?」
「似合っているよね~。うちの若い子達なんか、裕貴君見てキャーキャー言ってるよ~」
そうなのだ。
毎日食材を差し入れに来る裕貴に、愛理ちゃん家で働く若い女の子達が盛り上がっているようなのだ。
いつも門先で料理長とやり取りして直ぐに帰るのだが、その姿を一目見ようと玄関に女の子が集まっているらしい。
学生時代、裕貴はファンクラブがあったため、芸能人のように出待ちをされていたのを懐かしく思い出す。
こうした人気は、由佳が求める長髪メンズの信者を増やす為にも、いい広告塔になってくれている。
なぜなら「長髪って格好いいよね!」が女の子の世論になれば、髪を伸ばす男子は必ず増えてくるはずだ。
グッジョブ!裕貴!
「あの髪型って由佳の好みだったの?アイツまだお前の事好きなのかよ~。相変わらずモノ好きだなぁ」
がはははは、と笑う高木の横腹を笑顔で殴る愛理ちゃん。
グフゥッ!と高木がメロンを吐き出しそうになっている。
汚いな、高木。
「あんなにイイ男なのに、由佳はやっぱり裕貴君のことは恋愛対象外なの~?」
「うーん。そうだねぇ」
「いや、お前に裕貴じゃ勿体ないだろ・・・ぐはッ!ちょ、愛理、いてぇよ!!」
「だよねー。私も自分で思うよ。あ~あ、私も誰かにトキメキたいなぁー」
「でも愛理~、裕貴君以上に完璧な男の人って見たこと無いんだけど~。裕貴君にときめかない由佳が、裕貴君以下の男達にときめくなんて無理なんじゃないのかなぁ~?」
ふむ、一理ある。
昔から、愛理ちゃんは私に対して異様に裕貴をプッシュしてくるから、完璧というのは言い過ぎかもしれないが。
確かに、裕貴以上に何でもこなせる人間を私は知らない。
人間性に優れ、容姿端麗、思いやりもあり芯のブレない男。
・・・あれ、スペックだけあげれば確かに完璧じゃないか。
だがときめかないのだから仕方が無い。
「由佳にとって、裕貴君ってどんな存在なの~?」
裕貴の存在かぁ・・・・
「うーん、何だろう・・・よくさ、『無人島に一つだけ持って行けるものがあるとしたら、何を持って行くか?』って質問があるじゃない?私にとってその答えは『裕貴』なんだよね。そんな感じ?」
「うわぁ、お前マジ最低だな。裕貴をモノ扱いかよ。俺、お前の事友達としては好きだけど、そーゆー所理解出来ないわ。なんで裕貴はこんな女に惚れて・・・ぐっふぉ!!!」
愛理ちゃん、今のパンチは鳩尾に入ってたよ・・・
でも、高木の感覚が普通だと思う。
裕貴をモノ扱いしている訳じゃ無いけど、自分にとっては必要不可欠な存在で。
どんな時でも、裕貴さえいたら何とかなるんじゃないかって思える。
恋とか愛とかじゃない、仲間としての絶対的な信頼を置いてる。
それが、裕貴の私に対する気持ちを利用して傍から離さないだけじゃないのか、と言われてしまったら全くその通りで。
高木の言うとおり、最低な人間なのかもしれない。
「そうだよねぇー。私も裕貴離れしなきゃいけないなぁとは思っているんだけど、気付いたら一緒に会社なんてやってるしさー。このままだと、結局ずっと裕貴に頼っちゃいそうなんだよね~。わたし、一生結婚出来ないかも・・・」
「裕貴君は、由佳に頼って貰えて嬉しいんだと思うよ~?由佳が離れていく事を望んでもいないだろうし、今のままの由佳でいいと思うよ~?」
「いやいや、良くねーだろ。お前がそんな様子だから、優しい裕貴は傍離れられないんじゃねーの?裕貴の幸せ思うなら、そろそろ解放してやったら・・・って!!愛理、危ねーだろ!!物を投げるな、物を!!」
裕貴に対する正反対の意見で、言い合っている二人がなんだか可笑しい。
愛理ちゃんは相変わらず裕貴プッシュだけど、高木は客観的な意見で私の目を覚ましてくれる。
冷静に考えれば、全くもって高木の言うとおりで。
こうやってしばらく距離を置いたからこそ、いつもとは違った視点で考える事も出来る。
私は、裕貴との関係をどうしたいのだろう・・・
口論を続ける二人を見守りながら、由佳は考えるのであった。
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