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不幸体質とアゲマン♂の事情
しおりを挟む「あっ♡あぁっ♡♡」
パンパンパン!♡
一番最初のセックスの時は直前まで『ほんとに良いの?』なんて何度も不安げに確認してきたのに、今ではうつ伏せ寝でおしりだけ上げてる俺に覆いかぶさって容赦なく腰を打ちつけている♡
普段は柔和で性欲なんてありません、みたいな顔して予想外に雄みの強いガツガツしたピストンに、興奮が止まらない♡♡
「ふっ……♡はぁっ♡幸作さん♡♡♡」
「うっ……保志くん…………!俺もう……っ!!」
速さを増したピストンに、この人はもうイくんだと気づいて、俺のナカが無意識にキュッ♡と締まった。
「イッ……ああっ!」
「あぁああああっ♡♡♡」
ドピュドピュッ♡♡
プシャアッ♡♡♡
ゴム越しでも伝わる勢いと熱さのある射精に、俺も身体をふるふる♡と揺らしながら達する。
イッてからもキュンキュン♡と脈打つ俺のナカに「うっ……」と小さな呻き声を上げながら、その人はそこからちんこを引き抜いた。
◇◇
突然ながら俺、犬養 保志(いぬかい ほし)はヤリマンである。
──間違えた、“アゲマン”だ。
といっても、俺のケツ穴を掘れば金銀財宝がざっくざく出てくるわけではない。俺とセックスした相手に必ず何らかの幸運を与えるのである。
祈祷師である父方の爺ちゃんが俺が産まれた時にやってくれた“幸運に恵まれますように”という祈祷の儀式の際、勢い余ってケツの穴に祈りが集約してしまったことが原因らしいと、酔った爺ちゃんが爆笑しながら話していたのを覚えている。いや、笑いごとじゃねぇよ。
あ、だけどヤリマンっていうのも間違いじゃないかもしれない。
性別的には男だけど俺は生粋のゲイでセックスの時は挿入される側専門だし、人肌恋しさから少し前まではよくてきとうに見つけたセフレ達と遊んでいた。男なのにアゲ“マン”を自称しているのも、そうした俺の体質とマイノリティからだった。
一見便利なこの体質は俺がゲイで、しかも挿入される専門じゃなければ完全に無駄だったし、セックスしたとしても俺自身に幸運が訪れるわけじゃない。
今まではセフレ達が俺とのセックス後に宝くじの一等が当たっただのパチンコで大勝ちしただのの話を冷めた気持ちで聞いてただけだったけど、いよいよこのケツの穴に祈りを捧げてくれた爺ちゃんに感謝する時が来たようだった。
「保志くん、大丈夫だった?」
また激しくしちゃってごめんね、と心配そうに眉を下げながら俺にペットボトルの水を差し出してくれたこの人は相良 幸作(さがら こうさく)さん。
肩くらいまでの長さの色素の薄いサラサラの茶髪に、美青年と呼ぶのに相応しい整った顔立ち。少しつり目でたまに『目つきが悪い』なんてイチャモンつけられてるのを見るけど、すだれまつ毛に彩られた蜂蜜を溶かしたような甘やかな瞳がこの人の優しくて穏やかな性格を教えてくれていると俺は思う。
幸作さんは同じところで働く3つ年上の同僚であり──俺の“好きな人”である。
幸せを作る、なんて縁起良さそうな名前だけど、ここまで名前にボロ負けしている人を俺は初めて見た。
というのもこの幸作さん、自他ともに認める異常なほどの不幸体質なのだ。
今日も仕事終わりに突然風で舞い降りてきたバナナの皮に滑って転び、直後落ちてきた鳥のフンを後頭部に受け止め、なんとか立ち上がったらおばちゃんが爆走するチャリの前カゴから飛び出したネギが鞭打ちの要領でスパーン!と子気味いい音を立てて顔面にクリーンヒットし……と見てるこっちが目を覆いたくなるような不幸の連鎖だった。
それでも『参ったなぁ』、と苦笑いで済ましてしまうメンタルの強いこの人を、今まではただ見守っていて必要があれば傷の手当てをするくらいだった。
だけど半年前、世間話で『朝の弱い幸作さんが早起きしたなんて槍でも降るんですかね、HAHAHA』なんて言っていたらマジモンの槍が幸作さん目掛けて飛んできたのだ。
『これそこの高校の陸上部のやつだねぇ。たまに抜け出して俺のところに来ちゃうんだよ』
『いやそんな近所の犬みたいに言われても!!』
華麗に槍を避ける素振りを見せたけど掠ったらしくこめかみから血をだらだら流しながら笑う幸作さんを見た時に俺は確信した。
──これ以上あの不幸体質を放置してたら幸作さんは死ぬ。
だから俺はこのアゲマン体質で少しでも幸作さんの運気を上げるためにその場で『俺とセックスしませんか?』と声を掛けた(あとその高校にクレームの電話を入れた)。
死にかけた傍からセックスに誘うなんて幸作さん側から見れば俺はとんだサイコ野郎であるが、一刻も早くこの人を死の危機から救いたかった。
アゲマンなんでと言ったところで信じてもらえるわけはないので幸作さんには彼氏と別れて人肌恋しいから(同性が好きなことはこの時点でカミングアウト済みだった)、と説明してあるけど、それにしたって『そっか、分かった』とふたつ返事でその日のうちに俺を抱いてしまうお人好しぶりに誘っておいてなんだが頭を抱えたものである。
結果、ここ数ヶ月で定期的に俺のケツの穴にちんこ突っ込んでるおかげか命に関わる怪我とかはなくなったみたいだけど──
「保志くん?」
「あっ、すみません!」
長らく物思いに耽ってしまったらしい。
俺がぼーっとしてる間ずっと水を差し出してくれてたであろう幸作さんからそれを受け取って一気に飲み込む。
「身体は大丈──」
「はい!全然元気です!」
今度は余計に待たせまいとつい食い気味にうなづいてしまったけど、幸作さんはからかうでもなく「良かった」、と穏やかに笑ってくれた。
変に茶化すことなくちゃんと向き合って優しく包み込んでくれる──俺は幸作さんのそういうところが好きなんだ。ただ……
「……あのさ、保志くん」
ふと真面目な顔になって、重々しく切り出す幸作さん。
「俺たちもう何回もこうして……えっと、身体を重ねてるわけだし、そろそろ責任取って君とちゃんとお付き合いしたいんだけど……」
あー、セックスとかヤるとか言い慣れてなくて言葉を探してるの可愛いな。……じゃなくて、最近になってこうして行為後に幸作さんから正式な交際を申し込まれるようになった。
優しくて責任感が強い故の提案なんだろうけど、いくら幸作さんのことが好きでも俺はそこまで望んでいないし、女性としか付き合ったことがないというこの人が責任を取るためだけに同性と付き合うのはかなり荷が重いだろう。
俺はただ、幸作さんには出来るだけ安全で幸せな生活を送って欲しいだけなのだ。
もちろんずっとセックスができる関係を続けることが無理だとも分かっているので、今は爺ちゃんに頼んで幸作さんの不幸体質をどうにか出来るお守り的なものを作ってもらっている。それが完成したら、彼に渡してこの身体だけの関係も終わらせるつもりだった。
だからその提案に『はい、喜んで!!!』と飛びつきたくなるのをなんとか抑えて、今日も無理やり笑顔を作って俺は言う。
「いやほんと、責任とか考えなくて良いんですよ。俺が人肌恋しくて誘ってるだけですから」
「だけど──」
「……俺、今日はもう帰ります。鍵だけお願いしても良いですか?」
シャワーは帰ってから浴びれば良いやと、俺はティッシュでちんことケツだけ軽く拭いてから服を着ながら言う。
「えっ、もう0時になるし泊まっていきなよ」
今夜は特に冷えるらしいし、と続けて俺の手首を軽く掴みながら幸作さんは引き止めてくる。
「前も泊まらせてもらったしさすがに毎回は悪いですよ」
苦笑いしながら言う俺に「そっか……、いや、でも、」と言葉を探している様子の幸作さんはなぜだか必死そうだ。
細身な見た目の割にしっかり厚みのある胸板に『ほんとに寒いですね、幸作さんが暖めてください』なんて言って飛び込めたらどんなに幸せか。だけどそんなことして引かれでもしたら立ち直れないので、
「それじゃあ、おやすみなさい」
とだけ言って握られた手首を振りほどいて玄関につながるドアに手をかけた。
──だけど。
ザァッアアアアアアアアアアア!
ゴロゴロゴロ!!
ピカッ!!!
「うわっ、何!?」
突然外に響き渡った轟音にびっくりして幸作さんの腕にしがみついてしまう。今日、雷雨なんて予報あったっけ!?
──しまった、23歳のいい歳した男が雷にビビって抱きついてくるとか呆れられたかも……と心配になって結構身長差のある幸作さんの顔を見上げると、呆れたり怒ったりした様子はなかったけどなぜだか菩薩のような安らかな表情を浮かべたまま固まってしまっていた。
もしや幸作さんも雷が怖いんだろうか?
「………………」
「こ、幸作さん?」
「あっ、ごめん。なんか急にきたね。……これじゃあ保志くん帰れないよね?」
「うっ……そうですね」
突然降ってきたバケツをひっくり返したような雨と今にも落ちてきそうな勢いでゴロゴロ言ってる雷に、強引に出ていくわけにもいかず俺は頷く。
「この調子だと停電になるかもしれないし、そうなる前に早くシャワー浴びておいで」
「……今日もお世話になります」
言外に『今日は泊まっていけ』という圧を感じた俺は大人しく頭を下げてお言葉に甘えてまずはシャワーを浴びることにする。
基本はホテルで待ち合わせてセックスする俺たちだけど、今日みたいに幸作さんが一人暮らしする単身者向けマンションですることもある。
その場合はなぜだかほぼ確実に何らかの事件や事故が起きて俺は幸作さんの家に泊まることになるのだ(ちなみに前回はこのマンションの隣の部屋が飼ってる毒ヘビ4匹が逃げ出したとかで俺は家に帰れなかった)。
「……あ、だったら幸作さんもいっしょにシャワー浴びますか?」
いつ停電になってもおかしくないのなら、幸作さんだって早めにシャワーを浴びた方が良いだろう。
とはいえ優しいこの人が俺を差し置いて先に入るなんてことはしたがらないだろうと思っていっしょにと声をかける。「せっかくだし背中でも流しますよ」、と冗談半分で付け加えて。
「えっ、保志くんといっしょにお風呂……?うわっ!」
「幸作さん!?」
何か言いかけながら後ずさりした幸作さんが勢いあまって俺を押し倒すようにして転倒した。……なんで後ろに下がってて前に倒れるんだ?不思議な力でも働いてるみたいだった。
「保志くん!大丈夫!?」
「俺は全然……。幸作さんは?」
「俺も大丈夫。ごめんね……」
先に立ち上がった幸作さんに手を引かれて立ちながら俺は首を傾げる。
──俺とセックスした直後なのに、どうしてだろう?
今までのセフレ達は、俺とセックスした直後からだいたい4、5日くらいは何らかの幸運が続くらしい。
自分の体質のことは濁しつつそいつらに聞いた話によると、俺と解散した後に買った宝くじの一等が当たった奴とか、仕事で異例の昇進が決定して、更に別れた恋人と復縁もした奴とかがいた(そいつはそれでも俺とのセフレ関係を続行しようとしたので連絡先をブロックしておいた)。
だから幸作さんにも、宝くじ一等大当たりは極端な例でも、それに近い幸運が起こると思っていた。
だけど俺が見る限りは半年前みたいに突然槍が降ってくるみたいな命の危機こそなくなったけど、それ以上の良いことは仕事でも金銭面でも特に起こってないように見えるし、なんなら今みたいに俺を巻き込んだ小さなトラブルがよく起こるようになったと思う。
幸作さんの不幸体質が深刻すぎて、俺の体質だとそれを死なない程度にフォローするのに精一杯とか?
……それか、幸作さんにとっての幸せはお金とか仕事とかじゃないのだろうか?
だとしたら、“幸作さんにとっての幸せ”って、一体なんなのだろう?
まさか……恋とか?恋人は今はいないらしいけど、俺の知らないところで俺とのセックス後は好きな人と進展したりしているんだろうか。
でもついさっきは責任をとるためとはいえ俺に交際を申し込んできたし……
「──悩みごと?」
「わっ!す、すみません」
いけないいけない、物思いに耽るあまり幸作さんに余計な心配を二度もかけてしまった。
──幸作さんには好きな人がいるのかもしれない。
気づいてしまった可能性に泣きそうになって、「俺で良ければ聞くよ?」と真っ直ぐ見つめる蜂蜜色に情けない顔を見られまいと「いえ大丈夫ですから」とだけ言って背を向けた俺はそのままさっさと風呂場へ向かった。
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