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浮気なんてしてない!
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「……っ、瑞希っ、出る……っ」
「っ♡!?」
……ああそうだ。
『明らかに一人分じゃない料理が綺麗に消えててそれを誤魔化そうとする』
『玄関の写真立ては俺に見られる前に弾き飛ばす』
『炊飯器は一人暮らしにしては無駄にデカい』
『そこまでされて気づかない奴がいると思うか?』
『……瑞希、お前俺以外の男とも付き合ってるよな?』
あろうことかそう浮気を疑われた僕は覚えのないことで詰められるよりはマシだと早々に本当の秘密──誰もが引くレベルの大食いであることを勇さんにカミングアウトしたけど、どんなに必死に説明しても細身な見た目と少食を装っていた普段の様子からまるで信じてもらえなくて。
『そこまで言うなら証明してくれないか?』
と、その時点でなぜかゆるゆると勃ち上がっていた勇さんの“ソレ”──おちんちんを口元に宛てがわれたのだ。断ろうと思えば出来たことだけど、これ以上弁明しても話が進まないであろう絶望感と、普段の穏やかで紳士的な様子とはまるで違う勇さんの圧に屈してしまった僕はこれで信じてもらえるなら……と半勃ちの時点でとてつもない存在感を放っていたそのおちんちんをおそるおそる口にしたのだ。
そこまで思い出したところで喉まで突っ込まれていた規格外の大きさのそれからびゅるるるるっ♡♡と大量のいやらしい汁が飛び出してきて、頭を両手でがっちり勇さんの股間に固定されていた僕は勢いよく喉奥に注ぎ込まれたのを受け止めるしか出来なかった。
「ぉぶっ♡、ぶぉぼっ!!♡♡」
「あー……ヤバい。気持ち良いよ、瑞希」
受け止めるといっても一方的に喉にぶちまけられたそれをうまく処理することが出来ず嘔吐く僕を心配するでもなく勇さんは、恍惚とした様子でそう呟いてぴゅるるっ♡と残った精液をしっかり口内に吐き出してくる。
「ごふっ……♡な、んでぇ……!?」
「瑞希がすぐバレるような嘘つくからだろ?」
「だから僕は浮気なんてしてな……っ、んっ」
やっとおちんちんが口から引き抜かれたので今度こそちゃんと話そうとすると、股間に押し付けられていた頭を勇さんの顔に引き寄せられて次はキスで唇を塞がれた。
「んっ♡、は、あぅ……っ♡」
「ん……。やっぱり苦いな」
しっかり舌を絡ませて唾液を交換するような激しいそれを自分から仕掛けてきたくせに、唇を離した勇さんは「よくこんなの飲み込めたな」、と顔を顰めている。
というか、え、今キスされた……!?付き合い始めてから三ヶ月目にして初めて……!とときめきかけたけど、精液飲まされた後だし勇さんには僕が浮気したって誤解されてるし、こんな状況じゃ素直に喜べないよな……と我に返る。
「……なんで瑞希がそんな辛そうな顔するんだよ。浮気されたのは俺なんだぞ」
「……っ、」
茶化すように軽く僕の鼻をつまんでそう言う勇さんも、今にも泣きそうな顔をしている。
ああ本当に、どうしてこんなことに……!
僕はただ、この優しくてかっこよくて、ちょっとおせっかいな恋人と別れる原因になりうる自分の秘密を隠し通したかっただけなのに。
──出来るだけ長く、
──ううん本当はずっと、
──勇さんの傍にいたいだけだったのに──。
「うっ……ぐすっ……も……っ、らぁ……」
「……瑞希?」
「もうらめらぁ……!」
この状況からどうすれば勇さんの誤解を解いて、なおかつ別れずに済むのか考えたくてもうまく頭が回らなくて追い詰められた僕は、勇さんにつままれているせいで鼻が詰まったような情けない声も気にせず叫んだ。
「もうおしまいらぁ……!……冤罪で僕は捨てられて、勇さんは可愛くて少食で豆腐が主食の子のところへ行っちゃうんだぁ……!!」
「何の話をしてるんだ!?」
あまりに勢いよく泣き出した僕にさすがにいたたまれなくなったのか、勇さんは途中で鼻をつまんだ手を離して代わりに優しく抱き寄せて背中をとんとん、と軽くたたいてくれる。「人の食生活をとやかく言いたくないが豆腐が主食だと栄養面が心配だな……」とひとりごとが耳元で聞こえて僕の食事のことはあんなに気にしてたくせに!と言いたくなったけどとてもじゃないけど声に出せる精神状態じゃなかった。
「というか冤罪って、本当に浮気してないの、か……?」
喋っている途中で不自然に声が途切れて、何かを見つけたらしい勇さんの視線を辿ると、小さくて角ばった何かが見える。
「っ、そ、それ……!」
その何か──さっき見られまいと弾き飛ばしてここまで来たと思われる写真立てを勇さんが拾いあげて、半ば取り上げるようにして受け取った僕がずいっ!と見せる。
「これは……瑞稀のご両親か?浮気の件が解決しないとご挨拶には伺えないぞ?」
「そうではなく!!」
浮気したのに話に決着つけば挨拶に来てくれるの……?どうやら勇さんから別れる気はなさそうだとほっとしたのもつかの間、いや浮気してないし!!と写真の中の僕が持っている成人男性の頭くらいあるんじゃないかという大きさのどんぶりを指差して
「これ!全部僕一人で食べました!!」
と訴える。
「……は?」
(写真の中だけだけど)僕の食べっぷりを目の当たりにした勇さんはさっきまで据わっていた目をぱちくりと瞬かせている。
「他にも家族に連絡すれば、回転寿司で食べすぎてお店の120円のお皿だけストックなくなっちゃった時とか近所の定食屋さんでやってた時間無制限の大食いチャレンジで一晩食べ続けた時とかテレビでやってたデカ盛のカツ丼を大食いタレントの半分の時間で食べきった時とかの動画が──」
「あー、瑞希の実家も回転寿司で取るのは一番安い皿だけって掟があったのか。実は俺のとこも──いやそうじゃなくてなんかすごい話だな!?」
僕を抱き留めた手を離さないまま待て待て、と考えを整理するように下を向いてしまう勇さん。
「……それらの動画は別の意味で見てみたい気もするが今はいい。本当に、浮気はしてないんだな?」
「はい!」
「写真で見せてくれた中華料理は……」
「僕がひとりで全部食べました!」
「……“ナオキ”っていうのは」
「いつも使ってるデリバリーのアプリの配達員さんです!!」
「……はぁあー」
少ししてやっと顔を上げ、まだ半信半疑といった問いに僕がしっかり目を見ながらハキハキと答えるとようやく信じてくれたのか、力が抜けたように僕の肩に顔を埋めてくる。
「……お前はどうしてそんな誤解を招くようなことを…………」
「僕がそんな大食いだってバレたら今までの人達みたいに勇さんにも引かれちゃうんじゃないかって……」
「……瑞希の良さに気づかないような奴らと俺を一緒にするな」
勇さんには今まで知り合ってきた人達のことを話したことはなかったけど僕の言葉で色々と察したらしく、僕の肩に乗せた頭をぐりぐり押し付けながら不貞腐れたように呟く。
「ごめんなさい……」
「でもそうか、瑞希があんまり少食過ぎて心配だったけど本当はたくさん食べれるってことならむしろ安心したよ。それなら俺も──」
思いの外肯定的な言葉が来てほっとしながら聞いていたら、何かを言いかけた勇さんが「おっと」と口を噤んだ。
「どうしたんですか?……もしかして勇さんも、僕に秘密があるんじゃ」
「いや……秘密ってほどでもないんだが、このタイミングで言っていいものか迷──」
──ぐぎゅるるるる
「──って……ぶふっ」
勇さんの秘密らしきものに少しの不安はありつつも別れ話はしなくて済みそうな雰囲気に安心した瞬間、僕のお腹が盛大に鳴り響いて空腹を訴えてくる。さっきまで浮気を追求していた名残か少し歪んだ表情のままだった勇さんがその音で思い切り吹き出して、僕は自分の顔がカッと熱くなるのを感じながら「笑わないでくださいっ!」と彼から離れてお腹を隠すようにして蹲った。
「悪い悪い。そうだな──そんなに腹が減ってるなら、役に立てるかもな」
そうひとり納得したように頷くと、勇さんは僕に目線を合わせるようにしゃがみこんで──
「瑞希、ここから一番近いスーパーってどこだ?」
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