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木の枝に鉈を振り下ろし、薪にする枝を集めていく。ウルゴたちの場所からそれほど離れておらず、振り返れば木々の隙間から彼らの姿を捉えることができた。
先程のムートや、昨日のサラの言葉を思い出す。教団を快く思っていない彼らの言葉に、モモは色々と考えさせられた。
教団は完全な正義ではない。それはモモもわかっている。完全な正義など、この世に存在しないからだ。だとしても、教団が世界平和のための動いていることは間違いない。人々に、全ての真実を伝えていないにせよ、だ。
(カイン様……)
先程ウルゴが倒した大悪魔。あれこそサラや彼女の母親に芽生えた因果の元。すなわち、悪魔病に罹ったという父親、カイン・メイビスだった。
教団が広めていない真実。邪気にあてられた人間が、悪魔病になる。それとは別にある、悪魔病の原因。それが「因果」と呼ばれるものだった。
因果とは、悪魔病によって悪魔になった者と深い繋がりのある人物が、同じように悪魔病に罹るという現象だ。
因果については、教団でも扱いに困っており、教団本部の高位にある人間の、さらにごく一部にしか知らされていない。モモが知っているのは、彼女が邪気に対し鋭敏な感性を持っており、自らでその事に気が付いたからだ。
それをウルゴが「ジジイ」と呼ぶ彼女の祖父、ゲンに話すと、彼は渋い顔を浮かべ、誰にも話してはいけないと諭した。
「真実が人を救うとは限らん。真実とは、時に人を惑わし、破滅に導くこともあるのだ」
完全に納得したわけではなかったが、モモはそれを受け入れた。
因果はつながりの深い人間に発生する。それは親類縁者に限らず、友人や恋人も含まれる。すなわち、聖水に守られた土地に居ようとも、誰もが悪魔になり得るということだ。
そんな事実が広まれば、人々はたちまち混乱するだろう。誰もが疑心暗鬼に陥り、隣人に刃を向けるかもしれない。そのような事態を起こさないべく、教団は伝える事実を制限していた。
もしもムートやサラがこの事実を知ったら、彼らはどう思うのだろう。やはり教団は信用できないと、不信感が募るだろうか。そしてその真実を、多くの人々に広めるのだろうか。
頭に色々な考えが巡りながら枝を拾い、顔を上げた時、こちらを伺う影が見えた。
悪魔だ。普段ブーツにしまっているリボルバーだが、今は彼女の腰のベルトに挟まれている。モモは即座にそれを引き抜いて、目の前の悪魔に弾丸を放った。
頭に命中し、悪魔はその場で倒れ、霧散していった。
「…………」
倒した悪魔に、祈りを捧げる。今だけではない。今日は多くの悪魔を殺した。
教団では、悪魔を退治する事を「送る」と表している。人に危害を加える悪魔といえど、元は人であった可能性もあり、そもそも「殺す」という直接的な表現を避けるためだった。
だがモモはそれが好きではなかった。言葉を変えたとしても、命を奪っている事には変わらない。それを言い換えてしまうのは、責任から逃げているように思えたからだ。
手元に多くの枝が集まった。これだけあれば十分だと、モモは踵を返した。
答えは全く出ていない。戻った時、またムートに多くを問われるかもしれない。
それでも逃げることだけはしたくない。モモは足早に彼らの元へと戻っていった。
先程のムートや、昨日のサラの言葉を思い出す。教団を快く思っていない彼らの言葉に、モモは色々と考えさせられた。
教団は完全な正義ではない。それはモモもわかっている。完全な正義など、この世に存在しないからだ。だとしても、教団が世界平和のための動いていることは間違いない。人々に、全ての真実を伝えていないにせよ、だ。
(カイン様……)
先程ウルゴが倒した大悪魔。あれこそサラや彼女の母親に芽生えた因果の元。すなわち、悪魔病に罹ったという父親、カイン・メイビスだった。
教団が広めていない真実。邪気にあてられた人間が、悪魔病になる。それとは別にある、悪魔病の原因。それが「因果」と呼ばれるものだった。
因果とは、悪魔病によって悪魔になった者と深い繋がりのある人物が、同じように悪魔病に罹るという現象だ。
因果については、教団でも扱いに困っており、教団本部の高位にある人間の、さらにごく一部にしか知らされていない。モモが知っているのは、彼女が邪気に対し鋭敏な感性を持っており、自らでその事に気が付いたからだ。
それをウルゴが「ジジイ」と呼ぶ彼女の祖父、ゲンに話すと、彼は渋い顔を浮かべ、誰にも話してはいけないと諭した。
「真実が人を救うとは限らん。真実とは、時に人を惑わし、破滅に導くこともあるのだ」
完全に納得したわけではなかったが、モモはそれを受け入れた。
因果はつながりの深い人間に発生する。それは親類縁者に限らず、友人や恋人も含まれる。すなわち、聖水に守られた土地に居ようとも、誰もが悪魔になり得るということだ。
そんな事実が広まれば、人々はたちまち混乱するだろう。誰もが疑心暗鬼に陥り、隣人に刃を向けるかもしれない。そのような事態を起こさないべく、教団は伝える事実を制限していた。
もしもムートやサラがこの事実を知ったら、彼らはどう思うのだろう。やはり教団は信用できないと、不信感が募るだろうか。そしてその真実を、多くの人々に広めるのだろうか。
頭に色々な考えが巡りながら枝を拾い、顔を上げた時、こちらを伺う影が見えた。
悪魔だ。普段ブーツにしまっているリボルバーだが、今は彼女の腰のベルトに挟まれている。モモは即座にそれを引き抜いて、目の前の悪魔に弾丸を放った。
頭に命中し、悪魔はその場で倒れ、霧散していった。
「…………」
倒した悪魔に、祈りを捧げる。今だけではない。今日は多くの悪魔を殺した。
教団では、悪魔を退治する事を「送る」と表している。人に危害を加える悪魔といえど、元は人であった可能性もあり、そもそも「殺す」という直接的な表現を避けるためだった。
だがモモはそれが好きではなかった。言葉を変えたとしても、命を奪っている事には変わらない。それを言い換えてしまうのは、責任から逃げているように思えたからだ。
手元に多くの枝が集まった。これだけあれば十分だと、モモは踵を返した。
答えは全く出ていない。戻った時、またムートに多くを問われるかもしれない。
それでも逃げることだけはしたくない。モモは足早に彼らの元へと戻っていった。
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