聖邪の交進

悠理

文字の大きさ
上 下
5 / 32

4

しおりを挟む
その病の始まりは、黄昏の書に記される滅びのすぐ後だと言われている。
世界を破壊し、なおも残った悪魔たち。彼らは存在そのものが災厄と言われており、彼らが纏うとされる「邪気」が、人類の体を蝕んだ。
邪気は人間を死に至らしめるだけにとどまらなかった。邪気は体内を巡り、人間を内側から変化させる。やがて人の皮を食い破るように、人間を悪魔へと変貌させた。それが「悪魔病」と呼ばれる病だった。



「どうしましょうか……」

地下を上がり、ボロ屋を出たモモが呟く。

「私たちがすべての人に認められていないことは把握してましたが、あんなにはっきり言われたのは初めてです」

「そりゃあ仮にも守ってくれてはいるからな。表立って文句言やぁ、お前らの庇護が受けられなくなるかもって思う奴がほとんどだろ」

「心外です。信じるものが人それぞれなんてわかってますし、そういう人も含めて全て救うのが、暁の門の教えなのに」

「ま。熱心な教徒でもねえと、そこまで知らねぇもんだろ。あとな、世の中にゃあ宗教ってだけで毛嫌いする人間もいるんだよ」

「サラさんたちがそうだと?」

「さあな。見たところ訳ありみてぇだし。あの小娘の反応からして、知り合いか誰かが悪魔認定されて殺されでもしたってところじゃねぇか」

真偽のほどは、二人にはわからない。それが本当だとすれば、彼女が気の毒に思えた。
同時に、彼女に見える因果の原因がそれではないのかと、モモは考えた。

「悪魔になってしまった人を、再び人に戻すことは出来ません。悪魔になってしまったら最後、彼らは人類の敵として、手を下される」

モモもよく知っている事だ。決して多くはないが、悪魔になった人間を殺す現場を見たことだってある。そしてその誰もが、なりたくてその病に罹ったわけではない。

「主がお目覚めになれば、そんなことはなくなるでしょうか」

腰にぶら下げたホルダーにくくられた本を手に取り、静かに撫でる。
黄昏の書を聖書とする教団、暁の門。彼らは今、世界で最も影響力のある宗教団体だ。
彼らが保有する「聖水」は、悪魔を避ける効果を持つ。これを持って各地に赴き、町や村の周辺に撒くことによって、人が悪魔に襲われないよう活動している。
暁の門が人々を庇護するのは、決して一方的な善意だけではない。彼らの目的は「主」の復活であり、その為に人々の信仰心が必要なのだ。
黄昏の書曰く、悪魔の誕生は人々の信仰が薄れた事によるという。そして世界に蔓延った悪魔を完全に消し去るには、大いなる主の力が不可欠だという。
ゆえに暁の門は、主の復活を目的とし、その為に必要な信仰を集めている。悪魔を遠ざける聖水も、悪魔病の治療に使う聖装具も、全て主によって託されたものとして、主を崇めるようにと人々に教えを広める活動をしていた。

モモも暁の門の修道女なので、その活動を行う立場にはある。だが無理な改宗を進めるつもりは一切なかった。彼女はあくまで、すべての人を救って、世界を平和にしたいだけだった。
思い悩む彼女に、ボロ屋の前に置いておいた棺桶を担いだウルゴが、頭をポンポンと叩いた。

「主がどうだかは知らねぇけど、俺ら人間は出来ることを全力でやるしかねぇんだよ」

そのまま彼女を追い越して、歩を進める。

「悪魔を殺しに行くぞ。それもまた、お前が望む平和のための活動だろ」

「……はい。ですが先に、ここの教会に立ち寄りましょう。この町での悪魔病の記録を確認しておきたいので」

心の中で気合を入れ直し、ウルゴに並ぶ形でモモも歩き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

【完結】雨上がり、後悔を抱く

私雨
ライト文芸
 夏休みの最終週、海外から日本へ帰国した田仲雄己(たなか ゆうき)。彼は雨之島(あまのじま)という離島に住んでいる。  雄己を真っ先に出迎えてくれたのは彼の幼馴染、山口夏海(やまぐち なつみ)だった。彼女が確実におかしくなっていることに、誰も気づいていない。  雨之島では、とある迷信が昔から吹聴されている。それは、雨に濡れたら狂ってしまうということ。  『信じる』彼と『信じない』彼女――  果たして、誰が正しいのだろうか……?  これは、『しなかったこと』を後悔する人たちの切ない物語。

Bo★ccia!!―アィラビュー×コザィラビュー*

gaction9969
ライト文芸
 ゴッドオブスポーツ=ボッチャ!!  ボッチャとはッ!! 白き的球を狙いて自らの手球を投擲し、相手よりも近づけた方が勝利を得るというッ!! 年齢人種性別、そして障害者/健常者の区別なく、この地球の重力を背負いし人間すべてに平等たる、完全なる球技なのであるッ!!  そしてこの物語はッ!! 人智を超えた究極競技「デフィニティボッチャ」に青春を捧げた、五人の青年のッ!! 愛と希望のヒューマンドラマであるッ!!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...